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2002年度の創元推理三賞贈呈式ひらかる

鮎川哲也鮎川哲也先生が、2002年9月24日夕刻、お亡くなりになりました。享年83歳でした。『黒いトランク』をはじめ、精緻なアリバイ・トリックを駆使した謎解き小説で一時代を築く一方、鮎川哲也賞やアンソロジー『本格推理』の編集等で、新人作家の発掘、育成に尽力され、またご自身と相前後してデビューし、その後顧みられることの少ない作家の消息を探訪したり、好きな童謡唱歌の作家を訪ねたりする仕事に精力を注がれました。ご冥福をお祈りいたします。
 2002年9月27日午後6時、飯田橋のホテル・エドモント〈悠久の間〉にて、創元推理三賞の贈呈式が開かれました。
 今回は、3日前に鮎川先生がお亡くなりになったこともあり、全員の黙祷で贈呈式は幕を開けました。

 すでにこのホームページでも御案内しましたとおり、第12回鮎川哲也賞は後藤均氏の『写本室
(スクリプトリウム)の迷宮』(応募時の『スクリプトリウムの迷宮』を改題、ペンネームも富井多恵夫から改名)、第9回創元推理短編賞は山岡都氏の「昆虫記」と決定しています。また第9回創元推理評論賞は、残念ながら受賞作がありませんでした。

 鮎川先生への黙祷に続き、三賞の贈呈式は、まず〈第12回鮎川哲也賞〉から執り行われました。
 受賞者の後藤均氏が登壇され、東京創元社社長・長谷川晋一から賞状が、また鮎川哲也先生に代わって鮎川哲也賞初代選考委員・紀田順一郎先生から正賞のコナン・ドイル像が、さらに前回の第11回受賞者・門前典之先生から花束が贈呈されました。また浜松のミステリ図書館「アガサ」より恒例の花束贈呈が行われました。
 選考委員を代表して笠井潔先生が受賞作について丁寧にコメントされました。「受賞作は本格スピリットが力強く感じられ、小説としての完成度が高い作品だ。そして後藤氏には、鮎川先生ご自身が選考に携わった最後の受賞作であるということを、今後も忘れず活躍して欲しい」と述べられました。

 また、〈第9回創元推理短編賞〉は、受賞者の山岡都氏が登壇され、小社社長から賞状と賞金30万円の授与と、さらに前回の第8回短編賞受賞者・氷上恭子先生から花束贈呈が行われました。
 選考委員を代表して綾辻行人先生は受賞作について、「文章がよく、描写、人物造形などのバランスもよい。また本格ミステリとしての伏線の密度が高い」とコメントされました。

〈第9回創元推理評論賞〉は、惜しくも受賞作の選出は果たされませんでしたが、選考委員の法月綸太郎先生が、「ミステリ評論は過渡期にきている」と述べられ、佳作「探偵小説論批判」について「ジャンル生成について書かれていて、若書きの面があるが、はっとさせられる指摘がある。若さに期待したい」とコメントされました。

 最後に乾杯の辞を、来賓で本年度の日本推理作家協会賞と本格ミステリ大賞を受賞された山田正紀先生よりいただき、大いに歓談が盛り上がりました。

 パーティーのあいだに山前譲氏から鮎川哲也先生の最期のご様子についてお話をいただきました。「先生はよく旅先で苦しそうな顔でうたたねをしていたものでしたが、臨終の際は穏やかな寝顔のようでした」

 受賞作『写本室
(スクリプトリウム)の迷宮』は2002年10月10日、小社より単行本で刊行されています。
 また短編賞「昆虫記」は、同じく10月10月に小社より文庫にて刊行された『創元推理21 2002年秋号』に掲載されています。この号には、評論賞佳作「探偵小説論批判」(山本悠)も掲載され、三賞の選考経過ならびに各氏の受賞の言葉が掲載されています。あわせてお読みください。
(2002年10月15日)

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