私立探偵ケントのもとを訪れた美容師の男は、誘拐された三歳になる愛娘の発見と救出を依頼した。事件の手がかりはただひとつ、娘の生存を知らせるため、一週間おきに犯人が送りつけてくる写真だけである。ケントは妻と異能の友人ジョッシュの力を借り、数葉の写真から犯人の所在を割り出そうとするが……。謎解きの妙味と冒険活劇の魅力を併せもつ、読み心地爽やかな英国ミステリの逸品。解説=川出正樹
丸谷才一
(マルヤサイイチ )1925年山形県生まれ。東京大学大学院修士課程修了。大学ではジェイムズ・ジョイスを研究する。グレアム・グリーンなどの翻訳を手掛けるかたわら、60年に初の著書となる長編小説『エホバの顔を避けて』を刊行。67年『笹まくら』が第2回河出文化賞を、68年「年の残り」が第59回芥川賞を、72年『たった一人の反乱』が第8回谷崎潤一郎賞を、88年「樹影譚」が第15回川端康成文学賞を、2003年『輝く日の宮』が第31回泉鏡花文学賞を受賞。評論の領域での活躍も多く、1974年『後鳥羽院』が第25回読売文学賞を、85年『忠臣蔵とは何か』が第38回野間文芸賞を、99年『新々百人一首』が第26回大佛次郎賞を受賞。多岐に亘る文学的功績により2001年に第49回菊池寛賞を、04年に朝日賞を、11年には文化勲章を受ける。
文壇きっての推理小説愛好家で、エドガー・アラン・ポーの「モルグ街の殺人」を始めとする諸作やクリストファー・ランドン『日時計』の翻訳を手掛けているほか、晩年に至るまで推理小説の書評を寄稿。推理小説に関する文章を集成した著書には『快楽としてのミステリー』がある。12年没。