精神病院に入院して二年。ようやく退院が許されたハープシコード奏者のエレンは、夫の待つ家に帰り、演奏活動の再開を目指す。だが楽器の鍵の紛失に始まる奇怪な混乱が身辺で相次ぎ、彼女を徐々に不安に陥れていく。エレンを嘲笑うがごとく日々増大する違和感は、ある再会を契機に決定的なものとなる。早すぎた傑作としてシモンズらに激賞され、各種ベストに選出された幻の逸品。解説=松浦正人
ジョン・フランクリン・バーディン
1916年アメリカのオハイオ州シンシナティ生まれ。10代の内に両親と姉を次々と失う不運に見舞われ、職を転々としながら小説を執筆する。異色のミステリ『死を呼ぶペルシュロン』The Deadly Percheron、『殺意のシナリオ』The Last of Philip Banterを発表、続いて本書『悪魔に食われろ青尾蠅』Devil Take the Blue-Tail Flyを上梓する。人間心理に潜む闇と不可解さを幻想的な筆致で描き出し、熱狂的な支持を受けた。
浅羽莢子
(アサバサヤコ )1953年生まれ。英米文学翻訳家。東京大学文学部卒。主な訳書にセイヤーズ『学寮祭の夜』、チャーチル『ゴミと罰』、マクラウド『納骨堂の奥に』、キャロル『死者の書』、ピーク『ゴーメンガースト』など多数。2006年歿。