事故で2年間植物状態になっている恋人を見舞い続ける“私”の前に、分身を名乗る幽霊が現れる。自分そっくりな幽霊が一向に姿を消さないため、“私”は仕方なく一緒に暮らし始めるが……(「幽霊の心で」)。人間をクラゲにしてしまう、変種のクラゲが大量発生する。社会に動揺が走るなか、音楽活動をやめた“私”は、自らクラゲになりたがる人をサポートする仕事につき……(「光っていません」)。所属している劇団が行き詰まり、仕方なく役割代行サービスをしている駆け出し俳優の“あたし”。誰かに代わって別れを告げたりニセの恋人になったりしているうち、ある男から、「冬眠の準備を手伝ってほしい」という依頼があり……(「冬眠する男」)。
閉塞感に満ちた日常に解放をもたらす、韓国発、8つの奇妙な物語!作家の言葉=イム・ソヌ/解説=倉本さおり
「幽霊の心で」
「光っていません」
「夏は水の光みたいに」
「見知らぬ夜に、私たちは」
「家に帰って寝なくちゃ」
「冬眠する男」
「アラスカではないけれど」
「カーテンコール、延長戦、ファイナルステージ」
イム・ソヌ
1995年、ソウル生まれ。2019年に、1972年創刊の歴史ある文芸月刊誌『文学思想』新人文学賞を受賞して作家デビューした。2023年には短編「ラクダとクジラ」で第3回金裕貞(キム・ユジョン)作家賞を受賞。同賞は日本統治時代の朝鮮の小説家・金裕貞を称えて制定された賞で、現在活動中でデビュー15年未満の作家に対して与えられる。『光っていません』は、韓国で2022年の小説家50人が選ぶ今年の小説の第3位にランクインした。
小山内園子
(オサナイソノコ )韓日翻訳者。NHK報道局ディレクターを経て、延世大学などで韓国語を学ぶ。訳書にイ・ヒヨン『ペイント』、ク・ビョンモ『破果』『破砕』、カン・ファギル『大仏ホテルの幽霊』、チョ・ナムジュ『耳をすませば』などが、著書に『〈弱さ〉から読み解く韓国現代文学』がある。