――物語の結果すべてを決める絶対権力を握った存在、つまり神でもある小説家は、いかにして贖罪を達成できるのだろうか?
――『贖罪』
5月の頭。
ゴールデンウィークの後半である。
近所のエロいカフェで、白目をむいて、薄いアイスラテをすすっている。オープンカフェで仕事するにはちょうどいい季節で、ほどよくあったかく、周りに人気がなく、それにしても今年もこの店のアイスラテは水っぽいなー、もぅっ……。
ストローでかき回しながら仕事用のノートに目を落としたら、ふっと、去年のいまごろもこの同じ店で(席はちょっとちがうけど)白目をむいてこれを飲んでたな、と思いだした。
去年のゴールデンウィーク、『私の男』の最終回を書き終えてここでグッタリしてたんだった……。
あれからようやく一年かぁ、と遠い目になる。
ずいぶんばたばたした一年だったけど、ようやくまた、篭ってひたすら小説を書く、といういつも通りの生活にもどれたのでほっとしている。家で小説を書いてる毎日が、たいへんだけど、ほんとうに楽しい。
4月9日からずっと篭りきりだけど、そういえば月末に一回だけ、新刊『荒野』のポスターの写真を撮るので外に出かけた。着物を着るシーンがよく出てくる本なので、「そういえば、祖母と母が買った着物が3枚あって、あと1枚、着てないのが残ってる(〈トップランナー〉と授賞式で着た)」「じゃあそれを送ってもらいましょうか」という話になった。さっそく実家に連絡すると、
母「じゃ、着物2枚と、どれを合わせるかは趣味もあるから、帯は4本ぐらい送るわね」
わたし「うん。えっ、着物2枚?(ふ、増えてる……?)」
祖母と母が、着物を買い続けてるような気がしてものすごくドキドキした。と、しばらくして文春の担当S藤女史から連絡があり、
S藤「お着物、会社に届きました〜。着物4枚と、帯が6本。いまこっちで選んでます〜」
わたし「はい。えーっ、4枚!?(増えてる!)」
ポケットの中のビスケットみたいに、着物が増え続けている。ものすごくドキドキしながら実家に聞いてみると、「むかし一回だけ着たのもついでに入れといた」と言われたので、ホッと胸を撫で下ろす。結局、40年近く前に祖母が母に買ったけど一回しか着てないやつを着て、ポスターの写真を撮った……と、いうような騒ぎがあった。