桜庭一樹『赤朽葉家の伝説』
製鉄一族を支えた三代の女たちを描く瞠目の雄編。
ようこそ、ビューティフルワールドへ。

 終戦後、「辺境の人」に置き忘れられた幼子。この子は村の若夫婦に引き取られ、長じて製鉄業で財を成した旧家赤朽葉家に望まれ輿入れし、「赤朽葉家の千里眼奥様」と呼ばれるようになる。これが、わたしの祖母である赤朽葉万葉だ。――千里眼の祖母、漫画家の母、そして何者でもないわたし。高度経済成長、バブル景気を経て平成の世に至る現代史を背景に、鳥取の旧家に生きる3代の女たち、そして彼女たちを取り巻く製鉄一族の姿を比類ない筆致で鮮やかに描き上げた渾身の雄編!

 ――昨年、打ち合わせの席で「次は『初期の代表作』と呼ばれるような作品をお願いします」と凶悪なお願いをしてみたところ、桜庭一樹さんはあっけないほど簡潔に「わかりました」と肯いてくださいました。それから待つこと数ヶ月。発注したこちらの度肝を抜くような、強烈なパワーを持った雄編が届いたのです。たいへんな読書家である著者がついにその本領を発揮した、瞠目の長編と言えるでしょう。

 〈GOSICK〉シリーズで多くの読者を獲得し、また『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』『少女には向かない職業』『少女七竈と七人の可愛そうな大人』などの話題作でさまざまな少女たちを描き続けてきた桜庭さんですが、『赤朽葉家の伝説』ではこれまでの作風をさらに飛躍させ、製鉄一族の60年を描き上げるという大掛かりな試みに挑戦しています。作品にちりばめられたひとつひとつのエピソードも面白く、たとえば第1部では千里眼の万葉が出産の際、これから産もうとしている子の短い生涯をすべて幻視してしまうという凄まじい場面が登場します。凄絶で、滑稽で、ファンタスティックなエピソードが矢継ぎ早に綴られてゆく様は圧巻です。

 ふだんから海外文学を愛読している著者が、かつて読んださまざまな傑作の記憶を端々に埋め込んだ愛すべき傑作。力強い物語を楽しんで戴ければ、と思います。

(2007年1月9日)

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