「キャラクター」問題を真っ向から論じた鮮烈な評論集
笠井潔
『探偵小説と記号的人物(キャラ/キャラクター)
ミネルヴァの梟は黄昏に飛びたつか?

 《ハヤカワ・ミステリマガジン》誌上で7年以上も連載を続けている「ミネルヴァの梟は黄昏に飛びたつか?」。『バイバイ、エンジェル』に始まる《矢吹駆シリーズ》と同じく笠井潔先生のライフワークであるこの連載評論が、2005年11月刊の『探偵小説と二〇世紀精神』に続き、06年7月にまとまり、刊行されます。

 京極夏彦や森博嗣以降、探偵小説は、登場人物の「キャラ」性を前面に打ち出した、キャラクター小説的な色合いを強く帯びてきているように見受けられます。
 探偵小説は一体どこへ向かおうとしているのか。
「人物、性格」という意味のほかに、「文字、記号」という意味も持つ「キャラクター」という単語。このキーワードを頼りに、近代小説の流れを参照しつつ、「キャラ」「キャラクター」という切り口から探偵小説を読み解く、画期的な評論集となっています。

 巻末に収録した往復書簡や北山先生、辻村先生、米澤先生との座談会も、先生方それぞれの探偵小説へ向ける「想い」にあふれていて、どこを取っても「探偵小説はどこへ向かうおうとしているのか」、この問いに対する先生方なりの答えに満ちています。
 なんとも充実したこの一冊。是非お楽しみください。

*本作は、『探偵小説と二〇世紀精神 ミネルヴァの梟は黄昏に飛びたつか?に続く第3巻にあたり、《ミステリマガジン》連載分の第61回〜第90回までを収録しています。また、『本格ミステリこれがベストだ! 2002』『本格ミステリこれがベストだ! 2003』『本格ミステリこれがベストだ! 2004』に収録された、巽昌章氏、鷹城宏氏との「本格ミステリ往復書簡」、及び《ミステリマガジン》2006年2月号に収録された座談会「現代本格の行方」もあわせて収録しています。

●目次●
T 記号的キャラクターと精神的外傷
1 ジャンルXという提案
2 登場人物とキャラ
3 「キャラ萌え」の発生
4 無意識と内面性の深化
5 サイコとトラウマ
6 トラウマのあるキャラクター
7 大量死と大量生のトラウマ
8 トラウマと記憶戦争
9 構成されるトラウマ
10 探偵小説とトラウマの主題

U 大量死の経験と「キャラ」
11 多重人格とキャラ的なもの
12 内面領域の細分化と表層化
13 高度消費社会とリアリティの変容
14 名探偵の記号性
15 記号的キャラクターと探偵小説的論理
16 手塚治虫と横溝正史
17 探偵小説的論理のリアリティ
18 震災経験と探偵小説形式
19 倒錯的観念と逸脱的妄想

V 清涼院流水という「問題」
20 探偵小説と「あえて」の意識
21 ポストモダン第一世代と第二世代
22 境界例と二〇世紀精神
23 多重人格と固有名の消失
24 設定と物語の分離
25 世界観としての「大きな物語」
26 物語消費とデータベース消費
27 深層のデータベースと表層のシミュラークル
28 探偵小説と「大きな非物語」
29 二つの「大きな非物語」
30 ジャンルXと探偵小説形式

本格ミステリ往復書簡

座談会 現代本格の行方(北山猛邦+辻村深月+米澤穂信+笠井潔)

(2006年6月5日)