福家警部補は今日も徹夜で捜査する。
大倉崇裕『福家警部補の挨拶』


 創元クライム・クラブの〈落語シリーズ〉、『三人目の幽霊』『七度狐』『やさしい死神』でおなじみの大倉崇裕さんは、知る人ぞ知るマニアックな一面をお持ちです。しかも、趣味全開の著作があったりウルトラマンの脚本を書いたりと、仕事に結びつけてもいる強者であります。本書『福家警部補の挨拶』もまた、その一環と申せましょう。刑事コロンボ、古畑任三郎、特捜最前線……刑事ドラマについても一家言ある著者の声をお聞きください。

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「刑事コロンボ」のような倒叙ものを書いてみたい。長年の夢でもありました。
 実際、数年前から試行錯誤を始め、中には半分くらいまで書けたものもあるのですが、結局どれも完成にはいたりませんでした。
 やはり倒叙は難しい。完全にあきらめかけていたとき、ふと思いだしたのが、「刑事コロンボ」のノベライズでした。
 かつて私は、このノベライズの作業に参加したことがあります。そのとき担当の方からきつく言われたことがありました。
「主人公のコロンボは、何を考えているか判らない。だからこそ、犯人や周囲の人の一喜一憂が面白い。小説だからといって、そこをはずしてしまうと、コロンボの面白さはなくなってしまう。だから、コロンボの心情描写だけは絶対にしないでくれ」
 この手法を使って、倒叙短編を書いたらうまくいくかもしれない。主人公である刑事が何を思い、何を感じているのかは一切書かない。視点はその刑事を傍から見ている第三者のものにする。
 こうして生まれたのが、福家警部補です。
 おかげで夢が一つかないました。楽しんでいただければ、幸いです。
 あ、実を言いますと、新しい夢が一つできました。いつか、福家警部補をロサンゼルスに派遣できれば……なんて。

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 警視庁の刑事がロサンゼルスに出張するという状況が生じるのはどんな事件でしょうか。この夢、かなうといいですね。
 福家警部補が○○な遺体を検分する、○○な場所で事件が起こる等々、面白そうな腹案もおありの様子。今後の展開にも興味津々ですが、まずは本書で福家警部補の人となりをお確かめください。

(2006年6月5日/2008年12月5日)