創元ブックランド

英国ファンタジーの女王
ダイアナ・ウィン・ジョーンズの傑作
バビロンまでは何マイル 上下

 宮崎駿監督の「ハウルの動く城」が世界中を魅了したのは記憶に新しいことと思いますが、「ハウル」の原作者、英国ファンタジーの女王とも言われるダイアナ・ウィン・ジョーンズの作品が、2006年3月に刊行されます。

 『九年目の魔法』では伝承バラッド「タム・リン」を、『わたしが幽霊だった時』では古代アイルランドの恐ろしい女神モリガン(作中ではモニガン)を、現代を舞台にしたファンタジーのなかに見事に織り込んでのけた著者。今回は英国の古い童謡(ナーサリー・ライム)の「バビロンまでは何マイル」の唄を、物語の重要な道具立てとして使っています。

「バビロンまでは何マイル?
 三かける二十と十マイル。
 蝋燭の灯で行けるかな?
 ああ、行って帰ってこられるよ。
 足が速くて軽ければ
 蝋燭の灯で行けるとも」

 というこの唄、マザーグースとして知られる童謡集には必ずといっていいほど入っている有名なもの、耳にしたことがある方も多いのでは?


 地球出身の最下級魔法管理官ルパート・ヴェナブルズは、内心うめき声をあげた。前ユーゴと北アイルランドの平和のために奔走して帰ったばかりだというのに、今度は担当世界のひとつコリフォニック帝国の非公式の法廷への立ち会いだ。

 いやなことは重なるもので、家に戻った途端、マジドの師スタンが死にかけているという。スタンが死ぬとルパートは候補者名簿のなかから、新しいマジドを選ばなければならない。

 おまけに、コリフォニック帝国では、皇帝以下ほとんどの高官、妃、魔術師がまとめて暗殺され、肝心の後継者がどこにいるのか誰も知らないらしい。

 ルパートは、てんやわんやのコリフォニック帝国と、地球での新人マジド選び、ふたつの世界での難題を同時に抱え込むはめに……。

 新人マジド選びは難航を極めた。力の交点がある街に候補者を一個所に集める術を施したのはいいが、そこはなんとファンタジーの大会のまっただ中。おまけに候補者たちはみなひと癖ある人物ばかり。あろうことか、いったん候補から外したはずのとんでもない女の子マリーまでなぜか現れて事態はいっそう混乱する。

 一方、コリフォニック帝国の帝位継承者捜しも一筋縄ではいかない。苦労の末にやっと居場所を突き止めたと思いきや、途端に邪魔が入る始末。

 幽霊となったスタンの助けを借りて孤軍奮闘する下級マジドのルパート。鍵をにぎるのはマジドの極秘事項のひとつ「バビロン」。

 英国ファンタジーの女王が贈るとびきり愉快な物語。『花の魔法、白のドラゴン』(徳間書店刊)の前日譚にあたります。

(2006年2月6日/2006年3月6日)