魔物に席巻されたロンドン、少年ハンターと魔物の闘い

『魔物を狩る少年』
クリス・ウッディング著/渡辺庸子訳

魔物を狩る少年

 19世紀のロンドン。ヴィクトリア女王の統治下、英国は繁栄を謳歌しているはずの時代。霧の中で妖しげにうごめく影は、切り裂きジャックが、それともモリアーティ教授か。産業革命と科学の発達の陰で、名探偵シャーロック・ホームズが誕生し、『ジキル博士とハイド氏』『吸血鬼ドラキュラ』といった怪奇小説の名作が生み出された、豊かで混沌とした時代……のはずなのだが。

 この『魔物を狩る少年』の舞台になっているロンドンは、それとはどうやら違うようだ。
 プロイセン帝国の飛行船による爆撃、殲滅戦(フェアニヒトゥング)で、ロンドンは壊滅的な打撃をうける。英国はプロイセンに降伏し、英国のプライドは粉々に砕かれた。
 そして、“魔の眷属”がやってきたのだ。最初は誰も魔物の存在を信じようとしなかった。だが魔物たちは次第に種類や数を増やし、ロンドンの南側地域にはびこり、もはや駆逐できないほどの数にふくれあがっていた。
 魔物の襲来はロンドンだけでなく、世界中のほとんどの都市部で起きていた。

 こうした災厄のなか、魔物を狩る“魔狩り人(ウイッチハンター)”が生まれた。言い伝えや民間伝承、迷信や科学、先達と自分自身との経験をもとに魔物を狩る職業だ。

 その日、17歳にして凄腕のハンター、サニエル・フォックスは“揺りかご荒らし”(クレイドルジャック)という魔物を追っていた。だが、追いつめたと思ったのもつかの間、正体不明の獣(か魔物?)の襲撃で獲物を逃がしてしまう。
 サニエルを襲ったのは、なんと記憶喪失の少女だった。彼は少女を保護し、素性を突き止めようと手をつくす。少女はなんとか正気を取り戻しはしたが、記憶はもどらないまま。しかも彼女の背中には不気味な刺青が……。それはある秘密結社を示す忌まわしい印だった。アライザベル・クレイと名乗る少女の正体は?

 そのころ警察は、ロンドンじゅうを震えあがらせている、女性ばかりを狙うある連続殺人犯を追っていた。女性用の美しい鬘の下には大雑把に縫いあわされた袋の顔、スティッチフェイスと名づけられたその不気味な殺人犯は、警察の必死の捜査を嘲笑うかのように、今日も犠牲者をその鋭いナイフで切り刻んでいた。だが、チープサイド警察署のカーヴァー刑事は、そんなスティッチフェイスの犠牲者のいくつかに、ほかと違うあるパターンを見いだしていた。

 ウイッチハンターと刑事、別々のものを追っていたはずの彼らの道が交わるとき……。

 すべての鍵をにぎっているのは美少女アライザベル・クレイの記憶と背中の刺青。
 魔の眷属とハンターの壮絶な闘い、謎と戦慄に満ちた少年ハンターの恋と冒険の物語。

(2005年7月1日)

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