《鮎川哲也賞受賞作》
『鬼に捧げる夜想曲』 神津慶次朗

第14回鮎川哲也賞受賞作
鮎川哲也賞応募要項鮎川哲也賞歴代受賞作

鬼に捧げる夜想曲  昭和二十一年三月十七日。乙文明(おとふみあきら)は九州大分の沖合に浮かぶ満月島を目指して船中にあった。鬼角島(おにづのとう)の異名を持つこの孤島には、戦友神坂将吾がいる。明日は若き網元の当主たる将吾の祝言なのだ。輿入れするのは寺の住職三科光善の養女優子。祝言は午後七時に始まり、午前一時から山頂に建つ寺で浄めの儀式があるという。
 翌朝早く、神坂家に急を告げる和尚。駆けつけた乙文が境内の祈祷所で見たものは、惨たらしく朱に染まった花嫁花婿の姿であった……。
 この事件に挑むのは、大分県警察部の兵堂善次郎警部補、そして歴戦の名探偵藤枝孝之助。「この事件はそれほど単純じゃない。これは密室という非常識がある非常識な事件だ。だから、この事件を解決するには、同じく非常識な考え方が必要になってくるだろう」と言う藤枝が指摘する驚愕のからくりとは? 続発する怪死、更には十九年前の失踪事件をも包含する真相が暴かれるとき、満月島は震撼する!

 本作は、圧倒的なリーダビリティをもって第十四回鮎川哲也賞を射止めた『月夜が丘』の改題改稿版です。まさに弱冠、史上最年少受賞を果たした著者に御声援をよろしくお願いいたします。

 ●同時受賞作・岸田るり子『密室の鎮魂歌(レクイエム)』の紹介を読む

(2004年10月10日)