エラリー・クイーンがトム・ソーヤーだった頃
ダニエル・ネイサン『ゴールデン・サマー』
谷口年史訳

ゴールデン・サマー  セメント袋の山で遊び、海賊ジョン・シルバーの幽霊を呼び出し、シャーロック・ホームズ物の新刊を読み、詩を書いて新聞社に送り、大岡裁きをやってのけ、9回裏2死満塁のバッターボックスに立ち、暗号を解読し、開拓者になりきってインディアンと戦い、犯人を尾行し、ビジネスに打って出て……と、少年の夏はとにかく忙しい。

 主人公のダニーは10歳。メガネをかけた小柄な少年です。でっかいレンズ、ごついフレームのこのメガネ、両親が眠った後に懐中電灯の明かりで本を読むからかもしれません。そうやって読んだ『恐怖の谷』はダニーをちょっとした窮地に追い込みます。でも、とてつもないアイデアを生み出す小さな灰色の脳細胞は天下一品、この難局を無事に切り抜けます。

ゴールデン・サマー  「アメリカの探偵小説そのもの」と称されるミステリ作家エラリー・クイーンのこと、いとこ同士の二人が合作していたことは多くの皆さんがご存じでしょう。
 本書の著者ダニエル・ネイサンはその一人、フレデリック・ダネイの本名です。(1977年に来日、レセプション会場で鮎川哲也と談笑していたあのダネイです。)『ゴールデン・サマー』は1953年にネイサン名義で刊行。エラリー・クイーン・ファンクラブ(斉藤匡稔氏主宰)が発行する機関誌〈QUEENDOM〉に訳載されていた本作品が、このたび単行本としてお目見えいたしました。

 舞台は1915年のアメリカ、ニューヨーク州。マーク・トウェインも住んでいた小さな町、エルマイラ。トム・ソーヤーやハックルベリー・フィンさながらの日々を送るダニーの姿が生き生きと描かれています。しかもそこはクイーンらしく、トリッキーなエピソードが次々に登場。さしずめエラリー・クイーン版『トム・ソーヤーの冒険』の趣、10歳のダニーが直観と推理を武器に苦境をいかに脱しますか、ひと夏の冒険をお楽しみください。

(2004年8月10日)

本の話題のトップへトップページへもどる