『驚異の発明家(エンヂニア)の形見函』と対をなす 驚異の物語登場! アレン・カーズワイル『形見函と王妃の時計』
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時は21世紀。ニューヨーク公共図書館に勤める若き司書アレクサンダーは、ある富豪の老人から時間外の仕事の依頼を受ける。器械仕掛けや稀覯本のコレクションに熱をあげる老人は、18世紀の「形見函」の空の仕切りにしかるべき品を納めたいとの思いに取り憑かれていた。古い伝記により、その品とはマリー・アントワネット、つまり王妃の依頼を受けて作られた絢爛豪華な懐中時計であるとわかる。盗まれた時計を探す司書を陥れようと老人が巧みに仕掛けた罠。そして著者が仕掛けた読者をも欺く罠とは? デビュー作『驚異の発明家(エンヂニア)の形見函』から約10年、カーズワイルが放つ驚愕の続篇!
*書評より
サミュエル・ジョンソン、サム・スペイド、どちらのファンにも等しくアピールする素晴らしい魅力を備えた文芸サスペンス。 ──《[ロンドン]タイムズ》
驚くほど機知に富んでいる……実際にあった窃盗にヒントを得た、ヒッチコックさながらのスリリングな物語。 ──《USAトゥデイ》
*訳者あとがきより
著者が本書の構想を得たのが、ニューヨーク公共図書館に一年間「ライター・イン・レジデンス」として滞在(?)したことがきっかけなのはまず間違いないだろうが、そこで単に図書館の奇妙な世界とそのさらに奇っ怪な住人を題材にした話をでっち上げるのではなく、小説第一作の『驚異の発明家(エンヂニア)の形見函』の続篇、というより二作で表裏一体をなすものに仕立て上げたのは、やはりこの人徒者(ただもの)ではない。そして「作家」が誕生するのは、第一作ではなく、この第二作においてである。おまけにそこでは前作も含め、それまでの全ての話、キャラクター、いや読者までも巻き込んで、エッシャーの絵を文章で構築する離れ業をやってのけている。
だからひょっとして本書でこの作家を「発見」された方は、ぜひ前作も読んでいただきたい。どちらも独立に読んで十分楽しめるけれど、両方ともに読み込むことで、単独では見えない相が現れる。しかも背景世界が同じとか、片方が他方の注釈になっているといった単純なものではない。たがいに入れ子状になるかと思えば、片方が他方を呑み込んでしまったり、すると呑み込まれた方が寝技に持ち込んで一本取ったり、作品同士が口論を始めたり。もうてんやわんやなのだが、妙に美しくキマッてもいる。初めからこういう構想だったのか。それとも行き当たりばったりのご都合主義か。まず十中八九は後者だろうが、そう言ってやると著者は優雅ににやりとして言うはずだ。その中間のどこかだよ。
*前作『驚異の発明家(エンヂニア)の形見函について
(2004年7月10日)
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