ボーイ・ミーツ・ガール・ミステリ!
米澤穂信『さよなら妖精』

 遠い国からはるばるおれたちの街へやってきた17歳の少女・マーヤ。彼女と過ごす、謎に満ちた日々。そして彼女が帰国した後、おれたちの最大の謎解きが始まる――。

さよなら妖精 いつの時代も、どの世代にも、ボーイ・ミーツ・ガール・ストーリーは一種独特の魅力を持っていると思います。だからこそボーイ・ミーツ・ガール・ストーリーは連綿と書き続けられ、読まれ続けるのでしょう。《ミステリ・フロンティア》第3回配本となる本書『さよなら妖精』は、直球勝負のボーイ・ミーツ・ガール・ストーリーです。いえ、ボーイ・ミーツ・ガール・ミステリと呼ぶべきでしょうか。

 雨のなか行く場所もないマーヤと知り合った、高校生・守屋道行とその仲間たち。世界を旅しており、日本文化にも強い興味を示すマーヤには、守屋たちの平凡な日常も謎に満ちたものと認識されます。マーヤによって繰り出される数々の質問は、容易に答えられるものもあれば、答えられないものもありますが、その質問のなかに時折、どう考えても変な問いが混じっている。いったいマーヤは何を目にしたのか? 異邦人マーヤの問いに答えるには、その謎解きをしなければなりません。かくて守屋は推理に頭をひねることとなるのです。

 このように、本書は穏やかな「日常の謎」ものとして楽しめる作品ですが、それだけでは終わりません。次第に守屋はマーヤによって、自分の日常の外にまったく違う世界が存在することを痛感させられます。外の世界への憧れと、使命を持たずただ徒に安閑と日々を送る自分への苛立ち。そしてマーヤがある事情により帰国したあと、守屋はマーヤを思いながら最大の謎解きに挑むことになるのです。緻密に計算された本格ミステリとしての顔を顕わにする解明部分は、この作者の真骨頂と呼ぶに相応しい迫力を備えています。

 ボーイ・ミーツ・ガール・ストーリーおよび成長小説としての面白さ、本格ミステリとしての設定の斬新さと壮大なテーマ。読後、忘れ難い余韻を残す新鋭の野心作です。

 作者の米澤穂信(よねざわ・ほのぶ)氏は1978年生まれ。2001年に『氷菓』で角川学園小説大賞(ヤングミステリー&ホラー部門)奨励賞を受賞、翌年には第2長編『愚者のエンドロール』を発表して注目された新鋭です。乙一、冲方丁両氏のように、ライトノベルから登場して現在高い評価を受けている書き手が目につくなか、米澤氏もまた注目に値する新星として、ぜひ御一読をお願いします。

(2004年1月15日)

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