第25回吉川英治文学新人賞受賞!

伊坂幸太郎『アヒルと鴨のコインロッカー』

 未知数の新星たちが結集するミステリ叢書《ミステリ・フロンティア》の第1回配本となった本書は2004年度吉川英治文学新人賞受賞の栄誉に輝きました。



 伊坂氏は2000年、鎖国状態の島で予言能力を持つ喋るカカシが殺されるという奇想ミステリ『オーデュボンの祈り』で第5回新潮ミステリー倶楽部賞を受賞してデビュー。受賞第1長編『ラッシュライフ』が「このミステリーがすごい!」の第11位にランクイン、同年発表の短編「チルドレン」が日本推理作家協会賞候補に選ばれ、さらに第4長編『重力ピエロ』が刊行直後から絶賛を浴び、直木賞候補にも推されるなど、現在もっとも注目されている書き手と言えるでしょう。『アヒルと鴨のコインロッカー』は、『重力ピエロ』以来の長編となる、伊坂氏がデビュー前から構想していた最新ミステリです。

 大学入学のために仙台に引越してきた椎名は、隣の住人から突然「一緒に本屋を襲わないか?」と持ち掛けられます。彼の標的は、たった一冊の広辞苑。――一方、ブータン人留学生と付き合っているペットショップの店員・琴美は、ふとしたきっかけから動物を虐待する連中と嫌な関わりと持ってしまいます。このふたつの物語は、どこでどのようにして結びつくのか?
 本作の初校を読んでいた際は、この話がいったいどのような形で終わるのか見当がつかず、それでも作者の狙いを探りながら慎重に読み進めたのですが――いやはや。詳しいことは一切ここでは言及できませんが、いったいふたつのストーリーがどのようにして結びつくのか、楽しみながら読んで戴きたいと思います。

 ところで、ちょっと話はずれますが、デビュー作の『オーデュボンの祈り』を読んだ際、そのあまりにも個性的な作品世界に呆然としながらも、しかし個人的に強く印象に残ったのは伊坂氏のキャラクター造形力でした。日本人離れしたような洒落た味わいがあって、外国の映画を髣髴させるような、小説で言うならローレンス・ブロックの軽めの短編やウェストレイクの作品を想起させるような――
 その人物造形力が幸福な形で示されたのが『重力ピエロ』だと思いますが、その力は勿論、本書『アヒルと鴨のコインロッカー』でも遺憾無く発揮されています。丁寧な物腰のブータン人留学生や、ペットショップのオーナーである美貌の女性など、個性的な主役脇役たちが右往左往する展開は、軽みのある可笑しさに溢れ、伊坂ファンを充分に満足させるものでしょう。
 その一方で――本書では、これまでの伊坂長編とはやや異なった趣を持つラストが待ち受けています。なんというか、これがもう物凄く切ない。ここで説明できないのが残念ですが、ぜひお読み戴いた上で、切なくなって戴きたいと思います。

(2003年11月15日/2004年4月9日)