フェルディナント・フォン・シーラッハ『犯罪』が翻訳部門を受賞!「本屋大賞2012」発表会レポート&宣伝動画公開中


フェルディナント・フォン・シーラッハ『犯罪』の「本屋大賞 翻訳小説部門」受賞にあわせて宣伝動画を作成いたしました。また、担当編集者による「本屋大賞」発表会のレポートもあわせて掲載しております。



 さる2012年4月10日、明治記念館にて「全国書店員が選んだ いちばん!売りたい本 2012年本屋大賞」の発表会が行われました。「2012年本屋大賞」は『舟を編む』(三浦しをん/光文社刊)が受賞し、そして今年の特別企画投票「翻訳小説部門」第1位には、フェルディナント・フォン・シーラッハ著、酒寄進一訳の『犯罪』が選ばれました! 栄えある発表会の様子を、『犯罪』の担当編集者である、わたくし編集Sがレポートしたいと思います!

 「本屋大賞 翻訳小説部門」は、2010年12月1日?2011年11月30日の間に刊行され、日本で翻訳された小説(新訳も含む)のなかから「これぞ!」という本を選び書店員のみなさんが投票されることで決まるものです。フェルディナント・フォン・シーラッハの『犯罪』は日独で発行部数80万部を突破し、文学賞3冠に輝き、「このミステリーがすごい!」などの年末ミステリランキングでのきなみ2位にランクインするなど、昨年の翻訳出版業界を席巻した(!?)傑作短篇集です。新聞、雑誌、テレビなどさまざまな媒体にも取り上げられ、話題になった作品ですが、書店員のみなさまのおかげで「本屋大賞」にも選ばれるなんて……。受賞のお知らせを聞いたときには信じられない気持ちでいっぱいでした。

 そして半分夢のなかにいるようなふわふわした気持ちで出席した「本屋大賞」の発表会。500人を超えるたくさんのひとが集まり、大賑わいでした。うわぁ、テレビ関係者らしきひとたちがいる! 正面のスクリーン大きい! などと思いながらドキドキしていると、本屋大賞実行委員会理事長であり、「本の雑誌」編集長である浜本茂さんのご挨拶が始まりました。軽快なトークで場が沸いたあと、さっそく「翻訳小説部門」の大賞受賞作の発表が! 発表者として登壇されたオリオン書房の白川さん(眼鏡男子! いけめん!)が、今回の翻訳部門についての想いを熱く語ってくださいました。翻訳部門の創設は、ずーっとさまざまな書店員さんから要望があったそうです。ありがたや……。

 白川さんのお話を聞いているだけで涙が出そうになりましたが、ついに発表が! 「2012年本屋大賞翻訳小説部門の1位は……フェルディナント・フォン・シーラッハ、酒寄進一訳『犯罪』!」

本屋大賞集合写真
 ふおおおおお! と心の声を上げながら、私はカメラを抱えてステージ正面へ走りました。お仕事の関係で来日できなかったシーラッハさんのかわりに登壇された、酒寄先生の勇姿をカメラにおさめるのだ!! そして酒寄先生に渡されるトロフィー。大きな花束。このトロフィー、あとで見せてもらったのですがクリスタルガラス製でめちゃめちゃ格好いいです。そしてなんと、ドイツの作家であるシーラッハさんのためか、トロフィーに刻まれた文字はドイツ語……! 本屋大賞実行委員のみなさまのお気遣いに感謝感激です。

本屋大賞トロフィー写真
 シーラッハさんは本屋大賞受賞のお知らせを聞いて、それはもう喜んでくださったそうです。しかし「ドイツ政界を揺るがすような大きな裁判」に関わっていて、どうしても来日できなかったのです(これ、冗談のようですが本当です)。一体どんな裁判なのか激しく気になるところではありますが、作家と同時に刑事弁護士として活躍されている方なので仕方がありません。そして、続く酒寄先生のスピーチが感動的でした。

「今まで100以上の作品を翻訳してきましたが、『犯罪』はそのなかでも忘れられない1冊になりました。というのも、この作品をきっかけに、翻訳のスタンスが随分変わったからです」

 翻訳のスタンスが変わられた理由のひとつとして、昨年『犯罪』を訳している最中に、ドイツ政府のお招きでドイツ文学の翻訳家が集まるワークショップに参加したことが挙げられました。ドイツでは今、ドイツ文学の世界文学化が進められています。例えばアゼルバイジャンでヘルマン・ヘッセ全集を訳しているひとや、グルジアでギュンター・グラスを翻訳している銀行員姉妹など、さまざまな国のさまざまな立場のひとたちでネットワークが作られ、活発に情報交換しているとのこと。そのような環境に身を置いたことで翻訳に対する意識が変わったそうです。

「翻訳者が存在しない限り、各国の文学は世界文学とはなりえません。翻訳者はひとりの作家を世界文学の作者へと押し上げるための重要なファクターです」

 この言葉にしびれた……! 酒寄先生はこの発表会に、「翻訳者のみなさん全員の代表のつもりで」臨んでくださったそうです。先生のスピーチは、翻訳出版に携わる者としてものすごく勇気づけられました。そして、翻訳のスタンスが変わられた理由としてもうひとつ、昨年3月の大震災を挙げられました。

「ひとりの翻訳者として何が出来るか、それと同時に世界文学とは何かを突き詰めて考えました。そのような状況で最終的に『犯罪』の文体を決め、翻訳を完成させました」

 本当に素晴らしいスピーチでした。さらに、来日できなかったシーラッハさんから届いたコメントも読み上げていただきました。以下に全文を掲載したいと思います!



紳士淑女のみなさま
みなさまの素晴らしい国で賞をいただけたこと、しかもそれが本屋大賞であるということをわたしがどれほどうれしく思い、感動しているか、言葉ではとても言い尽くせません。映画や文学や絵画、たくさんのものがわたしを日本と結びつけています。ですから授賞式に出席できないことは残念でなりません。しかし、できるだけ早い時期に日本を訪ねることをここに約束いたします。
お話ししたいことは山ほどありますが、スピーチは3分くらいだろう、とわたしの翻訳者である酒寄さんから説明を受けたので、ショートストーリーをみなさんに披露したいと思います。

フランスの偉大な作家ギュスターヴ・フロベールがあるとき、同窓会に招待された。そのとき、ひとりが欠席した。病を煩ったのだ。同窓生たちはみんなで見舞状を送ることにした。もちろんフロベールが文章を書くことになった。彼は隣の部屋に移った。彼が歩きまわる足音が聞こえた。30分、1時間、1時間半。ついに疲労困憊したフロベールが部屋から出てきて、見舞状を披露した。そこにはたった一言、「お大事に」と書いてあった。

わたしの場合も同じです。一言申し上げます。素晴らしい賞をくださり心から感謝いたします。
フェルディナント・フォン・シーラッハ (酒寄進一・訳)



 ううむ。簡潔、かつユーモアとオチがきっちりある素晴らしいコメントですな!! 来日が叶わなかったのは本当に残念ですが、そのかわり、シーラッハさんから「これを使ってください」と言われたインタビュー映像を含んだスペシャル動画を作成しました! このレポートの冒頭でご覧頂けます。
 以上、長々とレポートして参りましたが、私の感動が10パーセントでも伝われば幸いです。本当に素晴らしい発表会でした。一生の思い出です。このような素晴らしい賞を設けてくださった本屋大賞実行委員のみなさま、全国書店員のみなさま、そして『犯罪』という作品に関わってくださったすべての方に深く御礼申し上げます。ありがとうございました! 願わくばこの翻訳部門賞が恒久的なものになりますように!