本作は2003年にサントリーミステリー大賞を受賞し、私のデビュー作となった『セカンド・サイト』の続編にあたるものです。『セカンド・サイト』は新宿のキャバクラに勤める黒服の主人公と予知能力を持つキャバクラ嬢が、互いに惹かれ合いながらドラッグ絡みの事件に巻き込まれていくというお話で、一部の人からはキャバクラのガイドブックとしても高い評価をいただきました。しかしながら、取材のためにキャバクラに行ったことは一度もありません。もちろんまったく知らないわけじゃありませんが、足を運んだのはせいぜい二度か三度。ネットでの情報収集と数少ない実体験を、妄想で補完したというのが実際のところです。ちなみに今作にも出張ヘルス嬢が登場したりしますが、取材はしていませんので誤解なさらないように。
文字通り「ここだけの」話をすると、サントリーミステリー大賞の選考会において、選考委員の一人である某著名作家さんが「この人は続編を書くつもりでいる」みたいな意味のことを言われたので、当初は意地でも続編は書かないつもりでいました。しかしその後なかなかこれという作品を書くことができず、続編を書きたいという欲求にも抗えなくなり、このたび温めていたものを形にした次第です。いろんな意味で、某先生の慧眼が証明されたということでしょうか。
続編とはいえ、登場人物が被っているだけでストーリー自体に繋がりはありません。ドラッグはもちろん、キャバクラに関する記述も皆無です。なので、『セカンド・サイト』を読んでいない方も充分楽しめる内容となっています。もちろん読んでいればより楽しめること請け合いですので、少しでも興味を持っていただいた方は是非ご一読ください。版元が違うのであまり大きな声では言えませんが。
本作も舞台は新宿。「不夜城」とか「犯罪者の巣窟」とか、結構ダークなイメージが付きまとっていますが、私自身はあまり怖いと思ったことはありません。まあ、ヤバそうなところには近寄らないようにしているので、当然といえば当然なんですが。それはともかく、新宿はとても懐の大きな街です。老若男女、善悪清濁、悲喜交々、すべて受け入れてしまう寛容さを持っています。「飲み込む」といったほうが的確でしょうか。その懐の深さが並はずれているために、ブラックホールのような恐ろしいイメージを生み出すのです。暗部まではとても描き切れませんが、本作を通じて新宿の魅力を少しでも伝えることができれば幸いです。
まだ今後のことを言えるような段階じゃありませんが、少なくともあと一作は続編を書きたいなぁと思っています。いずれにしろ、何らかの形でタクトと花梨に活躍の場を与えるつもりですので、楽しみにしていてください。
最後になりますが、このチャンスを与えてくださった桂島さんに、あらためて御礼申し上げます。期待を裏切らなければ良いのですが。そして本作をお読みいただいたすべての方に感謝。今後ともご愛顧いただけたら幸いです。
(2007年12月)