『神話の島』は私にとって初のミステリ作品です。もともと伝奇物・ホラー分野でデビューした私ですが、当初から小説構成の工夫として謎解きの要素は意識していました。しかしまさか本当にミステリのお話をいただけるとは、それも、あの東京創元社さんから!
これまでとはジャンルが違うということではじめは緊張し、戸惑いもありましたが、半分ほど書いたところで担当さんの「安心しました」というお言葉をいただき、ホッとしたのをよく覚えています。
孤島での疫病サバイバルと日本神話を絡めるという着想自体も、実はホラー用にと温めていたものでした。それを、死体を増やしたり不条理現象を削ったり時間を入れ替えたりしてミステリに組み立て直したのです。
実際書き進むうちには新たな仕掛けや小技も次々と沸き、慌てながらも充実感のある執筆作業となりました。もとは世紀末風の暗いエンディングだったのが、謎解き部分の爽快さに主眼を置いた結果、予想外に明るい結末へと着地できたのはなによりです。
本作では、固有名詞にこっそり遊びが入っています。日本神話をご存知の方は、是非、登場人物の名前に注意してみてください。主人公達よりひと足早く、最後のオチがわかるかもしれません。
ところで、ここで主役のひとりとして動いている笹礼は、前作『ハーツ』で脇役として登場したのが初出です。『神話の島』では大黒柱の責任と私の筆力不足から、妙に好青年の役回りとなってしまいましたが、本来はもう少し近寄り難い変人でした。いつかそちらの感触の笹礼もお届けできればと思っています。
作品上梓に当たっては、終始厳しくも温かく導いてくださった担当の桂島さん、お世話とご迷惑をおかけした東京創元社の皆さま、そして桂島さんと私とを繋いでくださった学研の木野さんに、心よりの謝辞を捧げます。ありがとうございました。
(2007年7月)