フランス料理店を舞台にしたミステリを書きませんか?
東京創元社の I さんにそう言われたのは、もうずいぶん前になる。
普段はあまり、編集者にそう言う提案をされるのは好きではないのだけど、そのときはごく自然に頭の中にイメージが浮かんだ。
高級フランス料理ではなく、カジュアルなビストロ。
木製のテーブルに、荒織りのリネンのテーブルクロス。小さな一輪挿し。狭くて、薄暗くて、音楽はかかっていない。
一見ぶっきらぼうなのに、実は紳士であるシェフの顔まで、はっきりと想像できた。
料理は、ル・クルーゼの鍋そのままで出されて、そして、最後にはシェフの特製ヴァン・ショーを。
料理をめぐるミステリを考えるのは、毎回大変だったけど、それでも楽しかった。なんとなく、〈パ・マル〉の中に自分がいる気分になれたからかもしれない。
二冊目の〈パ・マル〉は、ちょうど夏に出ることになってしまったけど、夏にヴァン・ショーというのも、“パ・マル(悪くない)”だと思う。
夏にだって、心にびゅうびゅう風が吹き込む日はあるし、そういうときは温かい飲み物が心をゆるめてくれるものだと思うから。
ということで、ビストロ・パ・マル、そろそろ開店です。
(2008年6月)