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【ここだけのあとがき】
スペシャリテはカスレ、
デセールはうっとりするほど
おいしい……
そんなビストロのシェフが
名探偵とは。
どこかにありませんか、こんなレストラン。
07年10月刊
『タルト・タタンの夢』
近藤史恵

 行きつけの店って、憧れませんか?

 ちゃんと行きつけの店がたくさんある人からすると、「なに言ってんの?」という感じでしょうが、お酒があまり飲めず、出不精で、外食をたまにしかしないわたしにとって「行きつけの店」は憧れです。

 落ち着いていて、居心地がよくて、おいしいものが食べられて、お店の人とも仲良しで、自分の部屋の延長みたいなお店。

 高校生のときは、倉橋由美子の『聖少女』に出てくる喫茶店〈ざくろ〉に憧れ、大人になったら、自分もこんな喫茶店に通い詰めたりするのかなあと夢見てはいましたが、実際には、行きつけと言えるのは、マッサージと回転寿司くらいです。

 まあ、これは人見知りというわたしの性格も大いに関係しています。気に入って通っていた韓国料理のお店で、「よくいらっしゃいますね。近所ですか?」と言われたことにびっくりして、それから行けなくなってしまったこともあるのですから。

 そんなわたしが、「こんなお店があるといいのに」と思いながら頭の中で作り上げたのが、ビストロ・パ・マルでした。

 決して高級すぎず、頑張っておしゃれしなくてもよくて、おいしいフレンチが食べられるビストロ。カウンターがあって、ランチくらいはひとりで食べられるとうれしい。スペシャリテはもちろんカスレで、フォアグラや自家製パテもメニューには絶対必要。タルト・フランベみたいな、日本ではあんまり食べられないものもあるといい。

 もちろん、デセールがうっとりするほどおいしいことも、絶対外せない条件です。そして、寒い日や気持ちの落ち込んだ日には、ヴァン・ショーを飲ませてほしい。

 そんなことを考えながら書きました。

 どこかにありませんか。こんなレストラン。

(2007年10月)

近藤史恵(こんどう・ふみえ)
1969年大阪市生まれ。大阪芸術大学文芸学科卒。93年、『凍える島』で第4回鮎川哲也賞を受賞し、デビュー。人間心理の機微を描く筆力には定評がある。著書に『ねむりねずみ』『ガーデン』『モップの魔女は呪文を知っている』『サクリファイス』など多数。
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