リナ&デッカー・シリーズ最新刊

『死者に祈りを』上下
フェイ・ケラーマン/高橋恭美子訳

 敬虔なユダヤ教徒のコミュニティで起きた事件を描いた、マカヴィティ賞最優秀処女長編賞受賞作『水の戒律』に始まるこのシリーズは、ロサンゼルス市警の刑事デッカーと正統派ユダヤ教徒の女性リナとの出会いから、宗教の壁を乗り越えての交流を細やかに描き、多くの読者の支持を得ています。

●最新刊『死者に祈りを』上下/高橋恭美子訳(2009年4月刊)


 警部補になり、本来なら殺人課の現場からは一歩退いているはずのデッカーだったが、忙しさは相変わらずで、愛妻のリナとも子どもたちともすれ違いの毎日が続いていた。
 そんなとき、心臓の専門医として名高い医師スパークスが無惨に殺害される事件が発生。家族にとっては良き夫、偉大な父であり、仕事仲間の医師たちにとっては、確かな腕と権威をもつ絶対的な存在、そして厳格なキリスト教原理主義者でもあった。
 さらに、被害者と仲間の医師たちが免疫を抑える画期的な新薬の開発に関わっていたことも判明する。

 被害者の息子のひとりブラムは、カトリックの神父で、しかもリナの亡き夫の親友だった。
 かつての恩人と夫への忠誠心の板挟みに苦しむリナ。デッカーも、事件にリナが介入してくることへの苛立ち、ふたりの関係への嫉妬に苛まれる。
 調べ進むうちに明らかになっていく、被害者の家庭の複雑な内情、部下の医師たちの屈折した思い。週末には荒くれた仲間とバイクに乗っていたという被害者の意外な顔。捜査が難航するなか、さらに第二の殺人が……。
 高名な医師に恨みをもつ人物は誰か? リナとの関係に苦悩しつつデッカーは捜査を進める。

愛の本質、家族の絆を問う、リナ&デッカー・シリーズ第9弾。


『正義の裁き』上下/吉澤康子訳


 愛する妻と幼い娘と共に平和に暮らすデッカー。目下の唯一の心配事は、ニューヨークで大学に行っている、前妻との娘のことだった。どうやら娘の周辺で女子大生がレイプされる事件が続発しているらしい。
 苛々を募らせるデッカーのもとに、ホテルの一室で若い女性が殺されているとの知らせが。被害者は高校生活の最後をかざるプロムの夜、友人たちと羽目を外していたらしい。
 デッカーの心の中で、被害者と自分の娘の姿が重なる。そして、捜査線上に浮かんだのは、プロムの夜、被害者と一緒にいた少年クリスだった。

 クリスは謎めいた少年だった。魅力的な容姿、プロなみのチェロの腕前、そしていつも穏やかで抑制された振る舞い。犯罪歴はまったくなく、しかも18歳にして、自分で生計をたてているらしい。
 殺された少女は彼のガールフレンドだったのか。クリスの身辺を調べるうちに、意外な事実が明るみに出る。なんとクリスはマフィアの首領の息子だというのだ。一流の弁護士に護られ、嘘発見機のテストをやすやすとパスしてのける少年。だが、デッカーのある発見がクリスの自制心を突き崩した。

 若さゆえの情熱と、哀しくも歪んだ愛を描く、リナ&デッカーシリーズ第8弾。

(2009年3月5日)