傑作『検死審問−インクエスト−』の面々が再登場
またも開かれた検死審問の行方は?

検死審問ふたたび
パーシヴァル・ワイルド/越前敏弥訳

 『検死審問ふたたび』という題名どおり、本書は『検死審問−インクエスト−』の続編に当たる、本邦初訳の作品です。
 では、前作を読んでいないと楽しめないのかというと、決してそんなことはありません。前作の登場人物が数人再登場し、検死審問(不自然な状況で死亡した人間に対し、その死因を法律的に特定する英米独自の制度)をおこなうという全体の流れが共通なだけで、扱われる事件も物語もまったく独立した内容になっています。
 したがいまして、本書からさかのぼって『検死審問−インクエスト−』を読んだとしても、これといった支障はありません。

 「全体の流れが共通」と書きましたが、前作で多くの読者を魅了した、ワイルド一流の語り口は本書でも健在です。審問記録のかたちを借りて、さまざまな事件関係者がそれぞれのやり方で事件を語るさまを、ユーモアをまじえて見事に書き分けています。
 本書で扱われるのは、火災により小屋が一軒全焼し、焼け跡から小屋の持ち主ティンズリー氏とおぼしき人骨が発見されるという、いってしまえば小粒な事件なのですが、これがワイルドの手にかかると、笑いながら先へ先へとページをくらずにはいられない、抱腹絶倒の読みものへと変化します。
 その主要な原因はなんといっても、登場人物のひとりイングリス氏にあります。今回、念願かなって陪審長に抜擢され、大いにはりきるこの御仁、積極的に意見を述べるは、審問記録に注釈を加えるはとやりたい放題。さらには火災現場まで、実地検分におもむかんとするのですが……。その顛末は、ぜひ自らご確認ください。

 ――とまあ、かようにユーモア分は大幅増量となっておりますが、もちろん謎解きの面でもぬかりはありません。江戸川乱歩やレイモンド・チャンドラーなど、数多くの目利きをうならせてきた前作同様、心憎いばかりの伏線が多数張られ、ミステリとしても満足のいく作りになっています。
 前作を楽しんでいただいた方はもちろんのこと、面白いミステリが読みたい方には恰好の一冊であると、言いきってしまいましょう。

 パーシヴァル・ワイルド『検死審問ふたたび』は3月24日刊行予定です。

(2009年3月5日)