ことによるといつの日か、自分が最初にいた世界へ戻れないともかぎらない。だから、とりあえず今は、そちらの世界について書きつけておきたいと思う。
こんな言葉ではじまる奇妙な手記。
めくるめく色彩の万華鏡、聖人たちの逸話、ヤン・ファン・エイクの「アルノルフィーニ夫妻の肖像」、ドイル、チェスタトン、ワイルド……。
読み進むうちに、詩人カーソンが紡ぎ出す、交錯し繁茂するイメージの蔓にいつしか搦め取られる、摩訶不思議な物語。
名著『琥珀捕り』に続いて贈る、詩人カーソンの真骨頂『シャムロック・ティー』。
カーソンの本は、遙かな古代と近い過去と未来がちいさく神話化されてぎゅうっと詰めこまれた、変な色をした密室のようだ。著者が好き勝手に書いてるのだから、こっちもいろんな動物になって好きに読めばよいのだ。 桜庭一樹(解説より)
(2009年1月6日)
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