児童養護施設の群像劇から
浮かび上がる「大きな物語」

七つの海を照らす星
第18回鮎川哲也賞受賞作

 今年の鮎川哲也賞受賞作は、第3回受賞作『ななつのこ』以来となる、「日常の謎」を扱った連作短編集です。児童養護施設の子どもたちの物語と、過去と現在を結ぶ不思議な事件の数々に、“真実”の糸が通されることによって、浮かぶ「物語」とは――


 様々な事情から、家庭では暮らせない子どもたちが生活する児童養護施設「七海学園」には、7つの不思議が言い伝えられ、今でも学園で起きる新たな事件に謎を投げかけていた。
 学園に勤め始めて2年目の北沢春菜は、人と馴染もうとしない中学生の葉子に手を焼いていた。周囲からは児童相談所の担当者「海王さん」に相談することを勧められるが、日頃から児童相談所のお役所的な対応に不満を抱いていた春菜は、あまりいい気分がしなかった。しかしどこか穏やかな空気を湛えた「海王さん」と出会い、今までとは違った安心感を覚える。
 ある夜、春菜は学園を抜け出して星を眺めていた葉子と話し、彼女が出会った不思議な謎――死んだ少女が七海学園に現れ、今も彼女を見守っている――に拘っていることを知る。そして「海王さん」は経緯を聞いただけで謎を解き明かしてしまう。
「ふだんの私たちの仕事だって全てが一時に解決されることはなかなかないでしょう? 不思議なことは不思議のまま残しておいてもいいんじゃないでしょうか」
 そう言いながらも「海王さん」は、その後も春菜や子どもたちの周囲で起きる奇妙な事件の話を聞くだけで、真相を言い当ててゆく……。


 孤独な少女の心を支える“死から蘇った先輩”。非常階段の行き止まりから、夏の幻のように消えた新入生。女の子が6人揃うと、いるはずのない“7人目”が囁く暗闇のトンネル……解かれる謎、解かれない謎、すべてが“真実”の糸でつながれるとき、円環をなす「大きな物語」が現れる――繊細な技巧が紡ぐ感動の物語にご期待下さい。

収録作品
第一話 今は亡き星の光も
第二話 滅びの指輪
第三話 血文字の短冊
第四話 夏期転住
第五話 裏庭
第六話 暗闇の天使
第七話 七つの海を照らす星
(2008年10月6日)