BBCドラマ化、今秋CSミステリチャンネルで放映!

〈サリー・ロックハートの冒険2〉
仮面の大富豪
フィリップ・プルマン/山田順子訳

●最新刊『仮面の大富豪』(上下)(10月刊)


「マハラジャのルビー」事件から6年。サリーは財政コンサルタントとして、忙しい毎日をすごしていた。
 冒険を共にしたフレッド、ジムとはいい仲間だし、シャカという忠実な犬もいる。
そんなある日、サリーのオフィスにひとりの老婦人が訪ねてきた。2年前にサリーの勧めで投資をした先の海運会社が倒産、老後の貯えをすべて失ってしまったのだという。
 一方、劇作家になる目標を胸に、劇場で雑用係をつとめるジムは、出演者のひとり、奇術師に乞われて、劇場を脱出する手伝いをする。殺人を目撃し命を狙われているというのだ。
 海運会社の倒産事件を調べるサリーと、正体のわからない相手に命を狙われているという奇術師の依頼を調べるフレッドとジム。一見ばらばらの事件が、調べ進むうちにひとりの人物に集約していく。その人物とは、スウェーデン出身の謎の大富豪アクセル・ベルマン。

 イングランド北部に広大な敷地をもつ工場を建て、貴族の令嬢と婚約。華やかな活躍の陰に秘められた怪しい過去。
 ふたつの出来事は、やがて大きな渦となって、全員を巻き込んでいく……。

 名作〈ライラの冒険〉にも負けないスケールと感動。
 フェニックス賞オナー受賞。カーネギー賞70周年オールタイムベストに輝く『黄金の羅針盤』の著者の感動大作。
解説=田中芳樹




『マハラジャのルビー』


  1872年、10月初めの風の強い寒い朝、一頭立て二輪馬車が、ロンドン金融街の中心部にあるロックハート&セルビー海運会社の前に停まり、馬車から降りてきたひとりの若い女が御者に料金を払った。16歳ぐらいのその娘は、人目をひく美しい顔だちをしていた。ほっそりした身体を喪服でつつみ、青ざめた顔に黒いボンネットをかぶっている。娘は風に乱されてほつれたブロンドの髪を、ボンネットの中に押しこんだ。みごとな金髪にはめずらしい褐色の目の持ち主だ。この娘、サリー・ロックハートは15分ののちに、ひとりの男を殺すことになる……

 こんなわくわくするような書き出しの物語、主人公サリー・ロックハートは海運会社の経営者だった父を船の事故で失い、天涯孤独の身になったばかり。そのサリーのもとに、ある日謎めいた警告の手紙が送られてきた。

「サリ七つの祝福に用人しろ
 マーチバンクスが助けになってくれる
 チャツム
 用人しろ」

 間違い字だらけのこの手紙に書かれていた〈七つの祝福〉という言葉がその後の騒動の発端だった……
 ヴィクトリア朝のロンドンを舞台に、英文学やフランス語、歴史、美術、音楽に関する知識は皆無だが、軍の作戦、簿記、株式市場の動き、ヒンドゥー人に関する実用知識には堪能という、変わり者の少女サリーがもちまえの機転と勇気で父の死の謎に挑む。
 サリーにつきまとう怪しげな老婆ミセス・ホランド、阿片の煙にかすむ幼いころの記憶、そして呪われたマハラジャのルビーの行方……

 とにかく面白い、あの〈ライラの冒険〉の著者プルマンの傑作シリーズ開幕!

(2007年10月5日/2008年10月6日)