これぞ正統派英国本格

D・M・ディヴァイン『ウォリス家の殺人』
中村有希訳

『悪魔はすぐそこに』が『2008 本格ミステリ・ベスト10』海外部門2位、『このミステリーがすごい! 2008』海外部門5位などにランクインし、約10年ぶりに復活を遂げたD・M・ディヴァイン。今回もまた未訳の作品から一冊ご紹介します。死後出版された作品ながら、作中の年代からデビュー当時に書かれていたと推測される"This Is Your Death"――『ウォリス家の殺人』です。

 有名作家になった幼馴染のジョフリーの邸宅〈ガーストン館〉に招待された歴史学者モーリス。実際は夫の様子がおかしいと、かつて恋人だったジョフリーの妻ジュリアに訴えられての訪問だった。
 ジョフリーは長年音信不通だった兄ライオネルから、半年にわたって執拗に脅迫を受けていた。そして娘のアンとモーリスの息子クリスの婚約、過去の秘密を明かす日記の出版計画など、複数の問題を抱えて悩んでいた。
 また、モーリス自身も、兄弟同然に育ったジョフリーへのライバル意識と、クリスから向けられる憎悪に悩み、館の人間関係はいつになく異様な緊張をはらんでいた。
 やがてある晩、ジョフリーとライオネルが、暴力の痕跡を残す部屋から忽然と姿を消す。二十五年間にわたり連絡を絶っていた兄弟の間に何が起きたのか? モーリスは成り行きからウォリス家で起きた事件を追うことに……

 ドラマ性と密接に結びついた伏線の妙は、まさに巧手ディヴァインの真骨頂。『ウォリス家の殺人』は2008年8月末発売です。


(2008年8月5日)