古い日記帳があばくある家族の悲劇
気鋭の女性作家、本邦初紹介

千の嘘
ローラ・ウィルソン/日暮雅通訳

 つらい記憶を胸に秘め、見て見ぬふりをしても、悲劇が過去に起きたという事実は変えられない。未来永劫に葬り去ったつもりでも、思わぬきっかけで白日のもとに引き出されるのだ――

 ジャーナリストのエイミー・ヴォーンは、生前険悪だった母の遺品を整理していて、一冊の古い日記帳を見つける。モーリーン・シャンドという女性が書いたその日記には、シャンド家の平凡な日常が淡々とつづられていた。
 だが、その平穏な記述にどこか違和感を覚えたエイミーは、日記の主について調べはじめる。そして、18年前、シャンド家で起きた殺人事件のことを知るのだった。被害者はモーリーンの父レズリー。加害者は、モーリーンの姉シーラ。レズリーは姉妹の母アイリスに恒常的な暴力を加えており、それが事件の引き金となったのだという。
 意外な事実に惹かれ、アイリス、そしてシーラとじかに接触を持つエイミー。その直後から、彼女の周囲で不審な出来事が相次ぐようになる。それは、シャンド家の人々との交流を望まない何者かのしわざなのか。事件は、まだ終わっていない? 千の嘘に彩られた、過去の悲劇の真実とは――

 本書『千の嘘』が本邦初紹介となるローラ・ウィルソンは、現在までに7冊の長編ミステリを発表しているイギリスの女性作家。6冊目の長編で、CWA(英国推理作家協会)最優秀長編賞候補作となった本書と同じく、過去の事件と現在が呼応しあうような事件を描くのを得意としています。
 残酷な題材を扱ってはいても、ただ痛ましいだけでは終わらせず、強く心に訴えかけるものを残す作風は、本書をご一読いただければ明らか。ぜひ、ローラ・ウィルソンという名前を覚えていただければと思います。

 ローラ・ウィルソン『千の嘘』は7月29日刊行予定です。

(2008年7月7日)