社会派ミステリの傑作
大幅改稿で登場!
永井するみ『枯れ蔵』

 昨年発表した女子高校生のハードボイルド・ミステリの『カカオ80%の夏』で人気を博した永井するみ。小社では、音楽に主題を置いた『大いなる聴衆』、ジュニア・ファッションブランドに主題を置いた『さくら草』でファンを魅了しています。現在では、恋愛小説家としての顔も覗かせますが、元来は業界もの、とみに初期三部作は社会派ミステリとしても非常に評価の高いものでした。

 1995年に「瑠璃光寺」(『推理短編六佳撰』所収)で、第二回創元推理短編賞の最終候補、そして翌年に「隣人」で第十八回小説推理新人賞を受賞、さらに第一回新潮ミステリー倶楽部賞を受賞したのが、今回お贈りする『枯れ蔵』です。まさに96年は短編と長編それぞれ別の賞で受賞するという離れ業を成し遂げた著者。その著者が、約十年ぶりにデビュー長編を大幅に改稿し、作品のブラッシュアップを図りました。

 舞台は、田園地帯の広がる富山県のある地域。農業試験場に勤める五本木透は、ある日、変異型のT型トビイロウンカが異常繁殖していることに気づく。有機農法の米作りの名人と称される男の田圃を中心に。しかも、今回のトビイロウンカはこれまで日本に発生したことがないタイプで、既存の農薬に抵抗性を持つものだった。被害は拡大し、深刻な米不足を巻き起こす可能性も取りざたされる。そんな折、今回のT型に効果が期待される新しい農薬があると農協に連絡が入るが……。一方、食品会社に勤める陶部映美は、自社製品に使う無農薬米の状況確認のために、富山へ飛ぶ。そこで、親友の自殺の謎とトビイロウンカの奇妙な関連に気づく――。

 食料問題や、農薬問題、そして日本の米問題に切り込んだ、社会派ミステリの傑作を、お楽しみください。

現在、『枯れ蔵』につづく、住宅問題と林業を題材とした第二長編『樹縛』も準備中です。これにより、ご期待ください。初期三部作を創元推理文庫にてお届けできる予定です。

(2008年7月7日)