甥を捜す私立探偵が知るアメリカの暗部
MWA(アメリカ探偵作家クラブ)最優秀長編賞受賞作

冬そして夜
S・J・ローザン/直良和美訳

 ニューヨーク、11月の深夜。私立探偵のビル・スミスは電話で警察署へ呼び出され、妹の息子であるゲイリー・ラッセル少年と思わぬ再会を果たす。だが、たくましく成長していた15歳の甥は、なぜニューヨークへ来たのか打ち明けぬまま、再びビルの前から姿を消してしまう。
 甥の行方を探すため、ビルは手がかりを求めて妹一家が暮らす町ワレンズタウンを訪れる。そこはアメリカン・フットボールの盛んな、一見平和な地方都市だった。しかし、調査の過程でビルは町が抱える歪みと過去の醜聞に、否応なく直面してしまう。そしてまた、疎遠だった妹一家と接触したことで、ビルは自身の過去とも向き合うことになるのだった……。

 ビル・スミスとリディア・チン。ふたりの私立探偵を主人公に、高水準の私立探偵小説を書き続け、これまで多くの賛辞を得てきたS・J・ローザン。そんな彼女に、現代ミステリ界最高の栄誉であるMWA(アメリカ探偵作家クラブ)最優秀長編賞をもたらした作品が、本書『冬そして夜』です。さすが受賞作品だけあって、完成度の高さは折り紙つき。シリーズ第8弾ではありますが、ここから読み始めてもまったく問題はありません。
 日本でも話題になった、1999年に起きたある事件に衝撃を受けて構想されたとおぼしき本書でビルが関わるのは、現代アメリカ社会の歪みが引き起こした悲劇です。頼れる相棒のリディアとともに、惨事を未然に防ごうとする努力は報われるのか?
 本書はまた、ビルがこれまで断片的に語られてきた自身の過去に正面から向き合う話でもあります。複雑な事情を抱えつつも、目の前の事件を解決するために奔走するビルがかいま見せる、私立探偵としての誇りと大切な人々への思いを、どうか感じとってください。

 ビル・スミス&リディア・チンシリーズ第8弾、MWA最優秀長編賞受賞作『冬そして夜』は6月24日刊行予定です。

(2008年6月5日)