名作『若草物語』の作者は名探偵だった!
大胆な設定が楽しい新シリーズ登場
『ルイザと女相続人の謎』
アンナ・マクリーン/藤村裕美訳

『若草物語』を知っていますか?
 たとえ小説は読んだことがなくとも、映画やアニメで観たのであらましは知っている、という人も多いことでしょう。
 南北戦争に従軍している父のことを案じながら、慈愛に満ちた母親や周囲の人々に支えられ、日々の体験を通じて成長していくメグ、ジョー、ベス、エイミーたち四姉妹の物語は、親しみやすいエピソードに彩られた普遍的な内容を持っていて、いまなお世界じゅうで愛読されています。

 そんな名作『若草物語』を書いた女性がルイザ・メイ・オルコット。本書『ルイザと女相続人の謎』はそのルイザが自ら探偵役となって、親しい友人の死を巡る謎を解くミステリです。
 物語は晩年のルイザが、若い頃を回想する形ではじまります。時は1854年、ルイザは21歳でした。両親や妹たちとボストンの街中で暮らしています。『若草物語』は当然書かれておらず、それどころか作家としてのスタートをようやく切ったばかりです。
 ルイザが巻きこまれるのは、かつての友人ドロシーの死にまつわる事件。ボストンの旧家ブラウンリー家の女相続人だったドロシーを殺したのは誰なのか? 持ち前の行動力で、ルイザは独自の調査を開始します――

『若草物語』は、ルイザ・メイ・オルコットが自らの家族をモデルにして書いた、自伝的な要素を多く含む小説です。したがってルイザ本人を主人公に据えた本書にも、『若草物語』に通じるエピソードが多数登場します。
 たとえば冒頭で小説を執筆中のルイザは、ヒロインの名前で悩んでいます。「“ジョセフィーン(愛称はジョー)”という名前は、この物語のヒロインにはふさわしくないのではないか?」と。
 ここで彼女が書いているのは、『若草物語』とは似ても似つかぬ、流血ざたや暴力も出てくるスリラーめいたお話。家庭小説や少女小説のイメージが強いオルコットですが、じつは変名を使ってゴシック小説やスリラーを書いていたことが今日では明らかになっています。

 この事実ひとつ取っても、著者がきちんと取材したうえで執筆をしているのは明らか。それもそのはず、著者のアンナ・マクリーンはもともと歴史小説家なのでした。本書は彼女が初めて手がけたミステリだそうですが、史実とフィクションを巧みに混ぜ合わせて作品とする手つきは確かなもので、19世紀中盤のアメリカを舞台にした単なる歴史ミステリとして読んでも、充分に楽しむことができます。
 創元推理文庫では、引き続きシリーズ第2弾となる"Louisa and the Country Bachelor"(2005)の刊行を予定していますので、どうぞご期待ください。

(2008年2月5日)