著者初の恋愛小説
芦原すなお
『ユングフラウ』(2008年1月刊行)

 大学時代から続く恋人との関係に、距離を感じ始めた翠、二十六歳。
 大手出版社で文芸誌という誇りある仕事があるのに、どこか心が晴れない。
 ある日突然に、翠は女性誌への出向を命じられる。
 豪快な女性編集長や、いまどきの移り気な後輩などに囲まれて、とまどいつつも、自分なりの生き方を模索しようとする翠。
 でも、そこで新たに出会ったエッセイストやカメラマンなど、男たちからは次々言い寄られるし、恋人は二股をかけているし、男ってどうしてどういつもこいつも!
でも、女のわたしも……

 やり手編集者の恋模様を、直木賞作家が活き活きと描きます。
 ちなみに、タイトルのユングフラウ【Jungfrau】とは、スイス中南部、標高4158メートルのアルプス山脈の高峰のこと。処女峰、若い女性の意味もあります。冒頭、就職後初めてのボーナスで、翠は親友とユングフラウを訪れます。その山並みに深い感銘を受け、いつかまたここを訪れることを心の糧にしながら、仕事に励みます。

 なんと今回の作品は、『青春デンデケデケデケ』などの青春小説とも、『ミミズクとオリーブ』『嫁洗い池』『わが身世にふる、じじわかし』に代表されるミステリとも違う、恋愛小説です。とはいっても、著者独特でユーモアのある文体は健在。新たなスタイルの恋愛小説をじっくりとお楽しみください。

(2008年1月7日)