週刊朝日・宝石共催の探偵小説コンテスト入選作を含む
芦川澄子の全推理作品
ありふれた死因

 運命とは皮肉なものだ。大阪支社から東京本社に転任した雨宮の後を追うように移ってきたのは、由利子ではなく私だったのだ……。大阪時代、会社中の女の子のあこがれの的だった雨宮と由利子がつきあっていることを知っていたのは、社内でも私だけだった。「本社生活に慣れしだい君を呼ぶよ」という男の一時逃れの言葉を護符のように護って大阪に残った由利子。だが、雨宮に、会社の大株主である銀行の重役の令嬢との縁談が持ち上がったのだ……!

 週刊朝日、宝石共催の探偵小説コンテストにみごと一等入選した「愛と死を見つめて」をはじめ、「マリ子の秘密」「村一番の女房」「道づれ」「鼬」など、わずか五年足らずの間に商業誌、同人誌に発表された芦川澄子の全推理作品を集大成した待望の一巻です。
 近年、昭和の埋もれた作家の再評価が行われています。本格ものの天城一、山沢晴夫、ハードボイルドの高城高などが、一部熱心な読者に歓迎されました。ここに紹介する著者は、そういった作家たちとはちょっと趣を異にしていて、かつてヒッチコックマガジンなどで読んだ作品を髣髴とさせるサスペンスフルで、ひねりの利いた内容です。ヘンリー・スレッサー、ジャック・リッチー、C・B・ギルフォードといった作家を愛読していた方なら、こんな作家が日本にいたのか、と驚かれることでしょう。どうぞお楽しみください。

(2007年10月5日)
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