奇怪なるロンドン塔連続殺人
アセルスタン修道士シリーズ第2弾
『赤き死の訪れ』
ポール・ドハティー/古賀弥生訳

『毒杯の囀(さえず)り』に続く中世歴史本格ミステリ、アセルスタン修道士シリーズ第2弾『赤き死の訪れ』をお届けします。

 時は1377年12月。ロンドンの町を厳しい冬の寒さが襲う中、ロンドン塔の城守ジョン・クランストン卿が、塔内の居室で殺されます。数日前に謎めいた手紙を受け取って以来、ひどくおびえていた卿は、わざわざ部屋を替わったうえ、廊下には見張りの兵士を置いていたのですが、自らの身に起きる悲劇を防ぐことはできませんでした。殺人者は、折からの寒さで凍った塔の濠を渡り、城壁をよじのぼって卿の部屋にたどりついたらしいのです。

 しかし、別名〈赤き死の館〉と呼ばれるロンドン塔での惨劇は、これで終わりではありませんでした。クランストン卿と同じく謎めいた手紙を受け取った卿ゆかりの者たちが、その後も次々に死んでいくのです。ある者は鳴るはずのない警鐘が鳴ったあと、塔の城壁から墜落死し、またある者は深夜に誘い出されて……。

 奇怪な難事件に当たるのは、クランストン検死官とアセルスタン修道士のふたりですが、今回はそれぞれが難題を抱えていて、思うように捜査が進みません。検死官は愛妻モードの豹変に心を痛めており、修道士はというと教会の墓地から死体が盗まれる事件に悩まされている最中。はたして、名コンビは姿なき殺人者の正体を、見事暴くことができるのでしょうか……?

 本書のもうひとつの主役と言えるのが、主要な舞台となるロンドン塔そのものです。長い英国の歴史の中で、ある時は城塞として、またある時は監獄として使用され、多くの王侯貴族や著名人が非業の最期を遂げた場所。もっとも、14世紀当時のロンドン塔は、現在とは規模も異なり、犠牲となった人もまだそれほど多くはないのですが、すでに血塗られた場所というイメージはあったようで、〈赤き死の館〉という別名からもそのことはうかがえます。厳寒の中に堂々とそびえる、石造りの建物に住まうのは、城守一族、兵士たち、道化めいた人物に生きた熊(!)、そして……。

 ポール・ドハティー『赤き死の訪れ』は2007年9月11日刊行予定です。

(2007年9月5日)