ようこそ神倉へ 〜『女王国の城』竣工〜
女王国の城
有栖川有栖

 全国一千万ミステリ愛好家の皆さん、『月光ゲーム』『孤島パズル』『双頭の悪魔』に続く江神シリーズの第4長編『女王国の城』がいよいよ刊行です。燈火親しむの候にそぐわしい千三百枚の書き下ろしをご堪能ください。

「ミステリーズ!」vol.13に掲載後、競作アンソロジー『川に死体のある風景』に収録された「桜川のオフィーリア」には、神倉(かみくら)という架空の地名が出てきます。木曾の開田高原に近いここが、『女王国の城』の舞台。UFOに乗ってやってくる神様(つまり宇宙人)を心静かに世の中を浄化しつつお待ちするというコンセプトの宗教団体、〈人類協会〉の聖地です。

 大学に顔を見せなくなった部長のことが気にかかり、推理小説研究会の後輩アリスは江神二郎の下宿に不法侵入。室内には神倉へ行ったと思しき痕跡が散見され、こうなると「遠出するかもしれん」と聞いていたことが不安をあおります。なんたって神倉、潤沢な資金に恵まれ急成長を遂げている新興宗教の総本山ですから。
 様子を見に行こうと考えたアリスにマリアが同調、さらには就職活動中の望月、織田も「一緒に行こう」、かくて4人はレンタカーを仕立て皐月の木曾路をひた走ることと相成ります。
 さて、〈城〉と呼ばれる総本部に到着。江神の所在は確認できたものの何故か会わせてもらえない、押し入るにはガードが固い、ほぼ信者ばかりの特殊な〈街〉で住民の協力は期待できない、と不穏なムードが漂い、しまいに殺人事件が突発、巻き込まれた英都大学推理研一行は進退窮まって……

 かけまくも畏きペリパリ様の降臨を待つだけの宗教サークルかと思いきや、どえらいことをしでかしてくれた人類協会。80億円を投じたという〈城〉のスケールに圧倒されつつ、縦横に張りめぐらされた物語の糸を手繰っていく喜びを味わってください。推理あり、サスペンスあり、バイオレンスあり、アクションあり、UFOあり、椎茸あり、四字熟語あり……、まだまだ盛り沢山の500ページです。

(編集部 2007年8月6日/2007年9月5日)
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