ミステリ版「世界の車窓から」オーストラリア編
鉄道ミステリの逸品、ここに発掘!
記憶をなくして汽車の旅
コニス・リトル/三橋智子訳

 コニス・リトルというミステリ作家を御存知の方は、あまりいらっしゃらないかもしれません。
 オーストラリア生まれ、ニュージャージー育ちの姉妹、コンスタンスとグウェニス・リトルは、1938年に作家デビューし、以降15年にわたって、20作あまりのミステリを書き続けました。「コニス・リトル」は、彼女たちのペンネームです(なお、アメリカでは本名で本が出ています)。
 ちょうど第二次世界大戦を挟む時代、日本での紹介がされなかったのも、無理からぬことと思いますが、世相が暗い時代に彼女たちが書いたのは、まさにスクリューボール・コメディ。
 怪事件が起きてヒロインが窮地に陥り、おかしな登場人物たちは彼女を窮地から救おうとするどころか、さらに状況をややこしくする。ヒロインは謎解きと恋とに振り回されるものの、意外な真相が明らかにされて物語はハッピーエンドを迎える。読み出したら止まらず、読み終えれば気分爽快です。
 英米では「本棚に揃えておいて、繰り返し読むのが楽しみ」という人や、クリスマスのたびにプレゼント用に本を買う人もいるとか。近年、アメリカではほぼ全作品が復刻され、新たなファンを獲得しています。

 そんなコニス・リトルの本邦初紹介作は、代表作にして唯一の鉄道ミステリ、『記憶をなくして汽車の旅』です。
 記憶喪失のヒロインが、なぜか乗っているのはオーストラリア横断鉄道。見知らぬ親戚や婚約者がどやどや押しかけて旅の伴となり、おかしなやりとりの中、いたずらのような事件が続発し、とうとう殺人事件が!
 彼女の記憶はいかに戻るのか?(記憶喪失もののサスペンス)
 突然現れた婚約者の正体は?(ロマンティック・サスペンス)
 殺人事件の犯人は誰?(本格ミステリ)
 それぞれが鮮やかな結末を迎える物語の楽しさはもちろんのこと、旅行好きな著者らしく、オーストラリアの風土の描写も楽しめます。また、客車内の様子の描かれようや、区間によってゲージさえ変わる、1940年代のオーストラリア横断鉄道の特色あるディテールは、鉄道ファンの心をくすぐることでしょう。

(2007年8月6日)
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