不可能犯罪との闘い、いまだ終わらず
『サム・ホーソーンの事件簿V』
エドワード・D・ホック/木村二郎訳
(2007年6月刊行)

 大好評の『サム・ホーソーンの事件簿』、5冊目をお届けします。

 全ての短編で密室殺人や人間消失などの不可能犯罪を扱う、前例のないシリーズも、本書収録分で60編を数えます。手を変え品を替え、豊富な謎と解決のバリエーションで読者を楽しませてくれる、ホックの力量には感嘆するほかありません。
 本書の中で起きる最も大きな事件といえば、やはり第二次世界大戦の開戦でしょう。主な舞台となる町ノースモントにもいろいろな形で戦争の影響は及び、作中で起きる数々の事件にも深く関わってきます。そしてさらには、ある登場人物の境遇にも……。

 もちろん、戦争以外の理由でも、町や人は変わっていきます。1巻の時点では医師になりたての青年だったホーソーン先生も、作中でおよそ二十年が経過するあいだに、すっかり貫禄が出てきました。ただの田舎町だったノースモントも発展を遂げ、さまざまな変化が見られます。それらの変遷を楽しむのも、これだけ長く続いたシリーズを読む醍醐味のひとつではないでしょうか。

 本書に収録された中で、そうした時の流れがもっとも実感できる短編が「有蓋橋の第二の謎」です。
 創立百周年を迎えたノースモントの記念行事の一環として、ホーソーン医師が初めて解決した「有蓋橋の謎」(『サム・ホーソーンの事件簿I』収録)事件の様子を再現することになり、医師もイベントへの出席を求められます。ところが当日、“被害者”役の町長が、衆人環視の密室状態の橋上で撃たれて死ぬ事件が発生し……。
 一度犯罪現場となったまさに同じ場所で、新たな事件が起きるという趣向は、ひとつの町を中心に書き継いできたシリーズならではのものでしょう。

 収録作はほかに、アンソニー賞最優秀短編賞を受賞した「園芸道具置場の謎」、怪奇小説の名作「黄色い壁紙」(アンソロジー『淑やかな悪夢』収録)を下敷きにした「黄色い壁紙の謎」などのホーソーンもの12編に、付録のボーナス短編を加えた全13編。
 恒例のボーナス短編は「レオポルド警部の密室」。名警部レオポルド自身が密室殺人の容疑者となり、絶体絶命の窮地に陥る傑作短編です。あわせてお楽しみください。
 エドワード・D・ホック『サム・ホーソーンの事件簿V』は、2007年6月9日発売予定です。


(2007年6月5日)