思わず高校時代が恋しくなる!
夏休みの青春を描く名作
樋口有介『林檎の木の道』

 真冬の前橋を描いた『風少女』から一転、本作は真夏の暑い、そして退屈な夏休みからスタートします。昼間は自宅の屋上で池堀り、夜は祖父とその彼女が経営する居酒屋で過ごして退屈をまぎらわす、高校二年生の広田悦至。
 彼のもとにもたらされる、元恋人の自殺の報せ。我儘にふりまわされるのを嫌って、付き合ってすぐに別れた恋人・宮沢由実果。アイドルになるのを夢見て、タレント事務所に所属していたはずの彼女がなぜ自殺をしたのか?
 悦至は幼なじみの涼子とともに、真実を求め自転車で調査に繰り出します。

 今回の作品は、主人公の悦至がクールで冷静沈着なタイプ。そのため、脇を彩る登場人物が特異で、作品のテンションを引き上げます。
 例えば悦至の母。バナナが専門の植物学者という設定で、冒頭のシーンでは謎(?)のバナナ料理のフルコースを悦至たちにふるまいます。
 そしてもう一人が、マツブチくん。樋口作品にはめずらしい関西弁を使う悦至の友人。学校には顔を出さないくせに、悦至の家に入り浸り、由実果の死を報せたのも彼でした。

読後、思わず自身の高校時代を懐かしむこと請け合いの、青春ミステリの傑作をご堪能ください。

※2007年夏より、《柚木草平シリーズ》第二期刊行スタート!

(2007年4月5日)