あの〈ライラの冒険〉の著者が贈る傑作シリーズ
サリー・ロックハートの冒険1
マハラジャのルビー

フィリップ・プルマン/山田順子訳
創元ブックランド 5月刊行

 一八七二年、十月初めの風の強い寒い朝、一頭立て二輪馬車が、ロンドン金融街の中心部にあるロックハート&セルビー海運会社の前に停まり、馬車から降りてきたひとりの若い女が御者に料金を払った。十六歳ぐらいのその娘は、人目をひく美しい顔だちをしていた。ほっそりした身体を喪服でつつみ、青ざめた顔に黒いボンネットをかぶっている。娘は風に乱されてほつれたブロンドの髪を、ボンネットの中に押しこんだ。みごとな金髪にはめずらしい褐色の目の持ち主だ。この娘、サリー・ロックハートは十五分ののちに、ひとりの男を殺すことになる……


 こんなわくわくするような書き出しの物語、主人公サリー・ロックハートは海運会社の経営者だった父を船の事故で失い、天涯孤独の身になったばかり。そのサリーのもとに、ある日謎めいた警告の手紙が送られてきた。

「サリ七つの祝福に用人しろ
 マーチバンクスが助けになってくれる
 チャツム
 用人しろ」

 間違い字だらけのこの手紙に書かれていた〈七つの祝福〉という言葉がその後の騒動の発端だった……

 ヴィクトリア朝のロンドンを舞台に、英文学やフランス語、歴史、美術、音楽に関する知識は皆無だが、軍の作戦、簿記、株式市場の動き、ヒンドゥー人に関する実用知識には堪能という、変わり者の少女サリーがもちまえの機転と勇気で父の死の謎に挑む。
 サリーにつきまとう怪しげな老婆ミセス・ホランド、阿片の煙にかすむ幼いころの記憶、そして呪われたマハラジャのルビーの行方……

 とにかく面白い、あの〈ライラの冒険〉の著者プルマンの傑作シリーズ開幕!

(2007年4月5日/2007年5月7日)