大量の伏線とトロンプルイユで描きあげた
詩情溢れる野心的本格ミステリ
倉阪鬼一郎『騙し絵の館』
創元クライム・クラブ

 2007年、デビュー20周年を迎えた作家・倉阪鬼一郎は、翻訳家、俳人としても活躍しながら、独特の作風でミステリ、ホラー、幻想文学など様々な作品を描き続けています。
本作『騙し絵の館』はそんな倉阪さんの詩情溢れる本格ミステリです。

 過去に怯えながら瀟洒な館でひっそりと暮らす少女・鏡子、過剰なまでに彼女を守ろうとする執事・久村、そして頑なに作品の刊行を拒むミステリー作家・金原。過去に何かを秘めた彼らの描写とともに物語は進みます。
 世間を騒がせている、連続少女誘拐殺人事件の犯人だと名乗る「額縁の中の男」。その正体を金原が推理する過程で、彼らの秘密が少しずつ明かされるたび、著者がこの作品に張り巡らせた大量の伏線に気付かされるでしょう。
 魅力的なエピグラフに彩られ、幻想的な館を舞台に描かれた、哀しくも美しい野心的本格ミステリをお楽しみください。

 また、装幀は繊細かつ美麗なデザインに定評のある、柳川貴代氏が担当。自身で制作された「箱」をモチーフに、ただ綺麗なだけではない妖しく影のある、極上のデザインに仕上げていただきました。『騙し絵の館』の持つ世界観と見事に合致したこの装幀も、是非じっくりとご堪能ください。

(2007年3月5日)

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