初恋を切なく描く、樋口有介の真骨頂
大幅改稿で贈る、青春ミステリの傑作
『風少女』樋口有介

 誰もが経験する、甘く切ない初恋。
『初恋よ、さよならのキスをしよう』など、他数作品でも描かれる初恋。その最初の作品となったのが本作『風少女』です。
デビュー作『ぼくと、ぼくらの夏』から2年。著者の地元である、前橋を舞台に爽やかに若者たちを描いています。本作は、第103回直木賞候補にも選ばれます。惜しくも受賞は逃しますが、ファンの間でも一、二を争う人気作品として愛されてきました。

 初恋の苦い思い出を胸に引きずったまま、大学生となった斎木亮。父親の危篤という連絡を受けて、前橋に帰郷した彼に知らされる、初恋の女性の死。薬を毛嫌いしていたはずの彼女が、よりによって睡眠薬を服用して浴室でかっこ悪く溺れ死ぬなんて……。「奇麗だった彼女は、死んだときも奇麗だったはず」と、事故死という警察の見解に納得できない亮は自ら関係者を調べ始める。

 この『風少女』、1993年に、単行本からまったくの訂正を行なわずに不思議な経緯を辿って文庫化されます。詳しくは、以下著者あとがきを引用しますが、今回の刊行により大幅に生まれ変わった『風少女』をお楽しみください。

 文春版では単行本をそのまま文庫にしてしまったわけで、不本意のまま、時間だけがすぎていました。
 今回、再文庫化にあたっては思う存分に手直しをしましたので、読者の皆さんには本書が、実質的な初の文庫化、とご理解ください。
(「創元推理文庫版あとがき」より)
 来月4月には、同系列の青春ミステリの雄編『林檎の木の道』も刊行します。こちらもお楽しみにお待ちください。

(2007年3月5日)