主婦探偵ジェーン・シリーズ第9弾
ジル・チャーチル『飛ぶのがフライ』

 コージー・ミステリの大人気シリーズが帰ってきました。
 ジル・チャーチルの主婦探偵ジェーン・シリーズ第9弾『飛ぶのがフライ』が2007年1月に刊行されます。

 この作品、すでに8冊刊行されている人気シリーズの1冊ではあるのですが、なにぶんちょっと(いや、かなり……)あいだが開いてしまいましたので、そんなシリーズのことは初耳だよ、という人のために、かいつまんで概要をご紹介しましょう。

 本シリーズの主人公、ジェーン・ジェフリイはシカゴに暮らすシングルマザー。2男1女、3人の子供と犬1頭、猫2匹に囲まれて、平凡ながらあわただしい毎日を送っています。そのほか、隣に住む親友のシェリイに、少々厄介な姑のセルマ、ある事件(シリーズ第1作『ゴミと罰』)をきっかけに知り合ったハンサムなヴァンダイン刑事なんてところが、作品を彩る主な顔ぶれ。

 さて、このジェーン、主人公ではありますが、いつでも外見はパーフェクトにととのっていておまけに家事万能などという、そんじょそこらに良くいるフィクションのヒロインとはかけ離れた、じつにリアルな専業主婦なのです。
 毎日の炊事洗濯お掃除、子供たちとの朝の攻防や学校への送り迎え、隣人やPTAとのつきあいにいたる、日常生活描写のきめ細かさ、「あるある」とうなずけるエピソードやふるまいの数々が、国は違えど似たような日々を過ごすニッポンの主婦に、おおいなる喝采をもって迎えられたゆえんでしょう。

 とはいえ、そこはミステリの登場人物らしく、ジェーンには妙な才能もそなわっています。そう、ことあるごとに死体や事件と出くわすという稀有な才能が……その才能と、ちょっぴり人より強めの好奇心のせいでしかたなく、(日常の家事をなんとかこなしながら)毎度身のまわりでおきた事件を推理することに――
 ミステリとしてもしっかり造られており、ただのユーモア小説では終らないのが、本シリーズの特徴でしょう。

 そのほか、ほぼ毎回なにかしら有名小説・映画などをもじっているタイトルにも注目(今回の『飛ぶのがフライ』の元ネタはもちろん、1970年代にベストセラーとなったあの海外文学作品)。あれやこれや、非常に見どころの多い楽しいシリーズなのです。

『飛ぶのがフライ』
 今回、ジェーンは子供たちのサマーキャンプ候補地を下見するべく、親友のシェリイや保護者仲間たちと連れだって、隣州ウィスコンシンにあるキャンプ場まで出かけます。つまりは、手のかかる子供たちと離れ、のんびり休暇を満喫する絶好のチャンス! しかし、そうはうまくいきません。キャンプ場には謎の人影が出没し、おまけに台所事情に怪しい雲行きもあって……? とどめに、またしても死体の発見者となってしまうにいたっては、さすがのジェーンも休暇気分は消し飛んでしまいます。ところが、その死体が姿を消してしまい――?


■大好評〈主婦探偵ジェーン・シリーズ〉既刊

『ゴミと罰』
お隣で家政婦が殺された。容疑者はご近所の主婦一同。わが家を守るため、ジェーンは探偵活動を始めるのだったが……主婦探偵初登場作品。

『毛糸よさらば』
クリスマス。ただでさえ慌ただしい時期に、旧友とその息子が訪れ、おまけに殺人事件までついてきた。ジェーンはふたたび探偵を務めることを余儀なくされる。

『死の拙文』
母親とともに、自分史講座を受けにいくジェーン。そこで、誰からも嫌われていた受講者の老婦人が殺されて……生きがいと殺人犯を模索する第3弾。

『クラスの動物園』
親友シェリイのたっての頼みで、同窓会の手伝いを引き受けたジェーン。ところが、一夜明けると出席者の一人が死体となっていた……ますます快調第4弾。

『忘れじの包丁』
裏の空き地で映画撮影が始まり、ジェーンたちはロケ見物に出かける。やがて起きる小道具主任殺しの凶器は、ジェーンの包丁!? 第5弾。

『地上より賭場に』
スキーリゾートに出かけたジェーンたち。やっぱり殺人事件に出くわすが、動機はロシア皇帝の座にあった? 主婦探偵が休暇を満喫する第6弾。

『豚たちの沈黙』
長男マイクのバイト先のデリカテッセンで殺人が! 殺されたのは名うての迷惑おやじ。息子の安全を守るため、事件解決に乗り出す第7弾。

『エンドウと平和』
ボランティアに出かけた豆博物館の館長が殺された? 館内にあるさまざまなごたごたをより分けて、主婦探偵が解決に奔走する第8弾。

(2006年12月5日)