1975年発表の『雪の断章』で鮮烈なデビューを飾った伝説の作家、佐々木丸美。その後本格推理小説『崖の館』を著し、独自の世界を築く作品で熱狂的な支持を得てきました。現在までその作品は入手困難で知られていましたが、〈館〉3部作と称されるミステリ連作『崖の館』『水に描かれた館』『夢館』が創元推理文庫より復刊の運びとなりました。
雪に閉ざされた館で、未来への希望と不安に揺れる青年たちと少女たちの群像劇が展開する、叙情と論理が絡み合う館ミステリ。07年4月の『夢館』の配本をもちまして、3部作完結となります。
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冬の嵐の中、難破した人々が浜辺に辿り着きながらも、あまりの寒さに凍えながら命を落としたという、哀しい歴史を秘めた百人浜。その断崖にそびえる〈崖の館〉では、美しく慈悲深い少女が、おばとともに穏やかな暮らしを営んでいた。2年前、崖に若い命を散らすまでは――。
館に住まう財産家のおばの元に、高校生の涼子は5人のいとこたちとともに、いつものように冬休みを過ごしに訪れた。
わがままで歯に衣着せない女子大生の由莉、美大を目指す理屈屋の哲文、家事の得意な優しいお姉さんの棹子、千波の死を事故と納得出来ない真一、そして千波の元婚約者、研。皆、幼い頃から兄弟同然に育ってきた、愛すべき人々だ。しかし、2年前に起きた千波の死は、いとこたちの間に昏い疑惑の影を落としていた。
到着したその日、慌しく料理や掃除を始める涼子たちだが、その最中に、名画のコレクション・ルームから絵が盗まれた。だが、膨大な絵の中でも価値のある「黒衣の少女」には手をつけられた様子さえない。いったい誰が、何のために?
次いで、密室から棹子が攫われ、意識不明の状態で千波の部屋に運び込まれる。いとこたちは疑心暗鬼になりながらも、知恵を合わせて不思議な事件の犯人探しに乗り出すが、皆をあざ笑うかのように奇妙な事件は続く。
少年時代から千波を敬愛し続ける哲文は、事件が千波の死に関わっていると主張して独自の調査を始めた。涼子はそれを手伝うなかで、千波が生前に存在をほのめかしていた日記帳を発見する。
彼女は生前より姿の見えない悪意に脅かされていた。そして日記帳を手にした涼子にも同じく悪意の手が忍び寄り……。
幻想的な白い館で次々と起こる不可能犯罪。清新な感性で描かれる青春群像劇と本格推理の融合した稀有の傑作に、ご期待ください。