不可能犯罪の巨匠、生誕100周年!

カーを愛する8人が贈る、
全編書き下ろしアンソロジー。
『密室と奇蹟』

 ジョン・ディクスン・カー(カーター・ディクスン)――1906年11月30日、アメリカ合衆国ペンシルヴァニア州生まれ。アガサ・クリスティー、エラリー・クイーンとともに本格黄金期を代表する作家として並び称される存在である。
 現在でも広く愛される不可能犯罪の巨匠の生誕100年を祝して、8人の国内作家が捧げる傑作8編を収録。

芦辺拓「ジョン・ディクスン・カー氏、ギデオン・フェル博士に会う」
BBC放送会館で、自作のラジオドラマ収録に立ち会うカーを襲う非常事態。主要な役を演じる女優が行方不明になるという事件の影響で、生放送の続行が不可能になったのだ! 現実に起きた不可思議な事件と、その余波で先の見えなくなったラジオドラマ。二つの難題を短時間で解決しなければ――苦境に立ったカーが起こした「奇蹟」とは?

桜庭一樹「少年バンコラン! 夜歩く犬」
狂騒の世紀末、人面犬が夜歩くと噂されるモンマルトル。少女たちの歌声と嬌声が響く〈ムーラン・ルージュ〉で起きた踊り子殺人事件。容疑を掛けられた幼馴染みの美少女を救うため、妖艶な踊り子の姉・アロワイヨを始めとするムーラン・ルージュの娘たちとともに、少年アンリ・バンコランが手がかりを求めて真夜中のパリを奔走する!

田中啓文「忠臣蔵の密室」
赤穂浪士討ち入りの夜、吉良上野介はすでに炭小屋内で殺されていた! しかも現場に降り積もった雪には一つの足跡もなく、小屋の出入り口はひとつだけ……これは「閉じたる場」、すなわち密室ではなかろうか。大石内蔵助の元妻りくは、長男主税、そして原惣右衛門との間で交わした書簡から、安楽椅子探偵のごとく不可能犯罪に挑む。

加賀美雅之「鉄路に消えた断頭吏」
急行列車内で悪名高いダイヤモンド密輸犯が首なし死体で発見された。犯人は煙のように、複数の目撃者の前から忽然と姿を消したという。おまけにその頭部は、思いも寄らぬ場所から発見され……高速で走行する列車内で発生した多重密室殺人事件に挑むフェル博士の前に、思いもよらぬ旧知が姿を現す。巨匠が愛した“名探偵”たちの華麗なる推理合戦!

小林泰三「ロイス殺し」
ゴードン・クロス。北方の村で苛酷な環境に耐えつつ生活してきた少年が、唯一心の支えとしてきた優しい少女マリー。彼女は無法者の手によって、悲惨な死を遂げたのだ。彼は復讐を誓い、数々の苦境を潜り抜けて、ついに仇を見つけた。そのとき、ゴードン・クロスの耳にある「計画」が囁きかけられる……傑作『火刑法廷』に連なる、魔女と復讐の物語。

鳥飼否宇「幽霊トンネルの怪」
名物婦警三人を擁する綾鹿市交通課、通称D3課。怪奇・超常現象が大好きな佐野由利子警部、現実的な性格の佐倉桜警部補、そして不合理な状況から鮮やかに論理的解決を導き出す、マーチ大佐こと佐々井弥生巡査部長が、一直線のトンネルから忽然と消え失せる幽霊自動車の謎に迫る。

柄刀一「ジョン・D・カーの最終定理」
現代日本、ジョン・ディクスン・カー生誕100周年に浮き足立つカー・マニアの学生たちが遭遇する殺人。その事件は、カーが未解決犯罪を実際に解き明かしたという記録『カーの問答詩集』の中に残された、一つだけ解決に至っていない事件――通称“ジョン・ディクスン・カーの最終定理”と関連があるようだが……書物に残された記録と現在を繋ぐ、幻惑と驚愕の“解”とは?

二階堂黎人「亡霊館の殺人」
10年前、衆人環視の中で起きた雪密室の殺人。そこで使用された凶器は〈魔女発見人の短剣〉と呼ばれる、実際の魔女狩りに使用された忌むべき短剣だった。その短剣を代々伝えるゲディングス家の屋敷で行われる降霊会を前に、青年記者ホレスは伯父のH・M卿を訪ねるが、彼の不安を裏付けるかのように、再び密室で霊媒が殺される。幾度も起きる密室殺人の真相を、H・Mが鮮やかに解き明かす。
(2006年11月6日)