本格書店ミステリ 第2弾!

『晩夏に捧ぐ 成風堂書店事件メモ(出張編)
大崎梢

 前作『配達あかずきん』の惹句に「初の本格書店ミステリ」と書いたところ、これはいったいなんだ、とつっこみが入りました。そこで、たとえば本作の冒頭を例に、本作、本シリーズがいかに本格書店ミステリであるか、お話ししてみましょう。テーマに入る前の前奏部分に、書店ミステリの神髄が現れている、と思うのです。

 主人公たちの勤める成風堂書店に2人の刑事がやってきます。ある事件の容疑者と目されている人物のアリバイ証言の裏を取りにきたのです。その容疑者は、事件の起こったと思われる時間、この成風堂に2時間ほどいた、と証言しているのですが、刑事たちには本屋で2時間も時間をつぶしていたという証言自体、どうしても信じることができません。そんなことはない、本屋にいれば2時間でも3時間でも時間をつぶせますよ、という杏子。でも、昼過ぎに2冊の本を買って帰ったという証言の証拠がレシート1枚では、さすがに2時間のアリバイ証明にはなりそうもない、とお手上げ状態だった杏子に対し、そのレシートを見た多絵はみごとにその男のアリバイを証明してみせるのです……。さあ、どうやって? それを明かしてしまっては読書の愉しみを奪ってしまいます。でも、これって、「本格書店ミステリ」以外のなにものでもないでしょう。こう聞いて、本書に食指が動かない本好きのミステリ・ファンはいないのではないでしょうか。

『配達あかずきん』で「本の雑誌」2006年上半期エンターテインメント・ベスト10の第2位を獲得した、期待の新鋭大崎梢さんの第2作であるこの『晩夏に捧ぐ』は、シリーズ初の長編です。『配達あかずきん』をお読み方もそうでない方も、「本格書店ミステリ」に興味のわいた方は是非手に取ってみてください。
(2006年9月5日)