九十年のあいだ配達されなかった手紙が秘める告発。
郵政捜査官は歴史の闇に踏み込んでいく。
ロバート・ライス『ルシタニアの夜』(上下)


 今秋、大型新人による、類を見ない傑作をお届けします。

 シアトル市警を辞職したギリアン・ルーミスの新たな職業は、郵政捜査官だった。
 郵便に関連する事件に取り組む、警察官よりは危険のない仕事。だが、そのはずが、着任するや否や、彼女は殺人事件の捜査に駆り出される。モンタナ州の小さな郵便局で、局長と客が何者かに射殺されたのだ。
 彼女と、同僚のマックス・ドンブロウスキは、今は空き家の旧郵便局が荒らされているのを発見。人を殺しても手に入れたいものが、田舎の郵便局にあるというのか? それが、90年近い昔に、シャープレス・ウォーカーなる人物が投函したが、配達されなかった3通の手紙だと判明する。だが、その手紙の1通は何者かに盗まれてしまった。
 その手紙は何を伝えるものだったのか?
 そして、残された2通の手紙はどこに?
 ウォーカーを知る人々を探すルーミス。そして、彼女が掴んだのは、ウォーカーがルシタニア号事件について、何か重大な事実を知っていたらしい、ということだった。

 ルシタニア号事件……1915年、第1次世界大戦中、英国船籍の客船ルシタニア号は、ドイツ軍Uボートの魚雷攻撃により沈没した。犠牲者は1198人、うちアメリカ人は128人。アメリカが第1次大戦に参戦するきっかけになった。

 ウォーカーは、合衆国が参戦する起因となったこの大事件について、何を伝えようとしたのか。ルーミスとドンブロウスキがからくも入手した、彼の手紙の1通には、暗号と思われる文字列が。だが、手紙を追い求め殺人を繰り返した何者かは、とうとうルーミスにその凶手を伸ばしてきた!
 危機をかいくぐり、解雇されても単身捜査を続けるルーミス。上司との軋轢のなか、真実を希求する思いゆえに、彼女に協力するドンブロウスキ。
 ウォーカーの伝言を読み解き、2人がたどり着いた真相とは?

 歴史上の事件と、現代の殺人事件の捜査が並行するプロット。
 郵政捜査官という、特殊な警察機構の捜査過程。
 心に深い傷を負ったヒロインの、再起への道のり。
 それぞれが融合した、小説としても、ミステリとしても充実の一篇です。

【著者紹介】ロバート・ライス
 生年を含め、個人的なことを公表していない。モンタナ州在住であることと、小説を書くために司法の仕事に就くのを見送った、というくらいか。
 1992年、アーサー王伝説を主題とした歴史小説 THE LAST PENDRAGON で小説家としてデビュー。
 2000年、環境問題を主題としたサスペンス AGENT OF JUDGEMENT を発表。
 2003年、本作を発表。
 現在執筆中の作品の主人公は、アンドルー・ビニーという13歳の少年だが、この名前、彼のホームページで「ぼくの小説に登場して見ませんか」と募った、読者のものだとか。
 ■http://www.robertrice.com/(著者公式ホームページ)

(2006年8月7日/2006年9月5日)