全編に漲る緊迫感と深い余韻で名を馳せた、
伝説の逸品
ウィリアム・モール『ハマースミスのうじ虫』


 知る人ぞ知る〈クライム・クラブ〉叢書伝説の一冊、『ハマースミスのうじ虫』が翻訳も新たに登場!
 ハマースミスとはロンドン中西部の地名。不思議なタイトルですが、当代無比の読書案内『夜明けの睡魔』における瀬戸川猛資氏の名調子をお借りすると納得です。

『ハマースミスのうじ虫』なんてキタならしいタイトル、と思う人も多いだろうが、実物が出てくるわけではない。主役を演ずる人物の名前がバゴット。これをMaggot(うじ虫)という単語にひっかけたもので、うじ虫のようないやな、いやな、いやーな奴という比喩的な意味で使っている。

 本書は、「狡猾な恐喝者バゴットvs義憤に駆られたワイン商キャソン・デューカー」の物語。
 瀬戸川氏は前掲書で、「しゃれた風俗スリラーあり、ゴシック・ロマン風あり、不条理ミステリ風のものすらあって多士済々。こういう〈クライム・クラブ〉の中から一本選ぶとすれば何にすべきか、大いに迷うのだが、やはり、第23巻のウィリアム・モールの長篇『ハマースミスのうじ虫』でいきたい」「これはミステリ的おもしろさを超えた何かを持っている小説だと思うからである」と、非常にそそる紹介をなさっています。

『夜明けの睡魔』の頃には薦めるにも“絶版で気がひける”小説でしたが、ご安心ください。ハンディな形で復活いたしました。
 しかも、川出正樹氏による巻末解説は一編のミステリさながら。本編読了後に、この解説をじっくり味わっていただければと思います。びっくりしますよ。

(2006年8月7日)