ミステリ・フロンティア刊『配達あかずきん』は、ファッション・ビル内の書店に勤めるしっかり者の書店員・杏子と、勘は良いが手先の不器用な学生アルバイトの多絵が、書店の日常の中で持ち上がる謎を解いていく、という連作推理短編集です。
お客様からの奇妙な問い合わせや、配達したばかりの月刊雑誌をめぐる騒動など、克明な書店の日常作業を通して描かれる謎とその解明は、日に一度は書店を覗かないと気がすまないという愛書家のミステリ・ファンには見逃せません。
作者はこの『配達あかずきん』がまったくの第1作。しかし早くも第2作となる長編が待機中です。その中に、第1作を読まれた方には気になるエピソードが紹介されていますので、ちょっとご紹介しましょう。
子どもの頃からけっこう優等生だった、という多絵。塾の模試の採点や家庭教師のバイトをやって「なんの問題もないワタクシ」だった彼女が、いろいろ行き詰まっているときでした。「たまたま塾バイトの帰り、駅ビルの本屋さんに寄ったんです。そしたらそこの店員さんがね、他のお客さん相手に、当時私の気にしていたキーワードをポンと口にしたんです。話のついでに出たんでしょうが、すっごくドキドキしました。(中略)しばらくして、なんとなくその人と目があって、私は思いつくまま本を探してくれるように頼みました。そしたらすぐに棚から見つけてくれて、また面白いことを言ったんですよ」その書店人が杏子だったのはご想像の通りですが、彼女はそのときのことを全く覚えていません。「キーワードって、何?」「内緒です」「探していた本って?」「秘密です」――第2作に入って初めて明かされる二人の出逢い。
こういうやりとりが気になる方でしたら、『配達あかずきん』はあなたの期待を裏切りません。絶対保証いたします。