めくるめく色彩とイメージ、少年の不思議な初恋の物語
ニコラ・モーガン『月曜日は赤』

【作者のことば】

 わたしは長年、本にしてもらえるような良い小説を書こうと努力してきました。初めはずっと大人の読者に向けて書こうと思っていました。思いどおりに言葉を使うには、それしかないと考えていたからです。ところがその後、今から5年ほど前になりますが、デイヴィッド・アーモンドの Skellig(1998)(邦題『肩胛骨は翼のなごり』山田順子訳、東京創元社2000年刊)を読み、ふいに、力のある文章は大人だけを対象にしたものとは限らず、読者を選ばないことに気づきました。本作品『月曜日は赤』も、年齢に関係なく、言葉を愛するすべての人に受け入れられれば、と思います。

(一部抜粋)


 月曜日は赤。悲しみには虚ろな青い匂い。音楽にはバナナピューレからコウモリの小便に至るまで、さまざまな味がある……

 病院で目を覚ますと、なんだかとんでもないことになっていた。頭の中には思いもよらない言葉が、まぶたの裏には異常な映像が浮かぶ。世界でもっとも目が回る素晴らしくも恐ろしいジェットコースターに乗っている気分だ。
 そして視界の隅には妙ちくりんな化け物が座っていた。そいつの名はドゥリーグ。ぼくに言葉の力で世界を変えようと、しきりとそそのかす。
 そんなことには興味はなかった、ひとりの少女に出会うまでは……。彼女の肌は日に照らされたシナモン、焼きたてのケーキ、髪は蜂蜜のように長い。クリームのように流れ、吐く息は綿菓子の泡となって宙に漂う……。

 共感覚という特殊な感覚をもつことになった少年の不思議な初恋。めくるめく色彩とイメージの豊かな世界。

 これは言葉の力、そして力そのものの物語……

(2006年7月5日/2006年8月7日)