『ぼくと、ぼくらの夏』や『風少女』『林檎の木の道』に連なる青春ミステリで人気の高い樋口有介。
青春のほろ苦く甘酸っぱい世界観の作品から、近年では捕物帳『船宿たき川捕物暦』や、和製『アルジャーノンに花束を』とも誉れの高い『月の梯子』、連続バラバラ殺人事件を扱った最新作『ピース』などを手掛け、活躍の幅を広げています。そんな樋口有介が贈る人気シリーズ探偵が、柚木草平です。『彼女はたぶん魔法を使う』『初恋よ、さよならのキスをしよう』『誰もわたしを愛さない』など、洒脱で特徴あるタイトルに聴き覚え、見覚えのある読者の方も多いはず。また、『せつない探偵 柚木草平の殺人レポート』としてCX系で鹿賀丈史主演ドラマとしても人気を博した《柚木草平シリーズ》が、創元推理文庫で装いも新たに、そして読みやすくなって登場です。
元刑事で、現在はルポライターの柚木草平。雑誌への寄稿をしながら、元上司で恋人の吉島冴子や飲み屋のマスターやママなどからまわってくる未解決事件の調査も行なう私立探偵です。ヤクザを撃ち殺したことから自ら警察を辞し、妻や娘とは別居状態。と紹介していきますと、ガチガチのハードボイルドな主人公を想起させますが、柚木を彩る女性たちの存在が作品の雰囲気を明るく変化させます。柚木は、美女にめっぽう弱く、ついつい事件で知り合った女性たちに心惹かれ、思い悩んでしまいます。
今回発売となるシリーズ第四弾、『刺青(タトゥー)白書』は、待望の初文庫化作品になります。加えて、今作品は現在のところシリーズ唯一の三人称小説となっております。
卒業を間近に控えた大学四年生の三浦鈴女(みうらすずめ)は、惨殺されたアイドルが中学時代の同級生だと思い至り、驚愕を憶える。続いて別の同級生が隅田川で水死体として発見された。殺された二人の関係に気づいた鈴女は、ボーイフレンドの左近万作とともに事件の背景を調べ始める。一方の柚木草平は、最初のアイドル殺害事件の記事を依頼され、鈴女とは別ルートから事件を追う。二人の被害者には、刺青を消した痕があり、事件の鍵はそれぞれの中学時代にあると、鈴女と柚木は過去の事件を探り出す。
柚木の憂鬱は調査に、鈴女たちの爽やかな青春ストーリーが絡み合う、シリーズ屈指の傑作です。
《柚木草平シリーズ》は、『刺青白書』で第一期の刊行が終了になります。今夏から第二期してと『誰もわたしを愛さない』『彼女たちの美しく悲しい脚』『不良少女』のラインナップ(一部仮題、刊行順は未定)。乞うご期待。