第15回鮎川哲也賞佳作、待望の刊行
日向旦(ひゅうが・あきら)
『世紀末大(グラン)バザール』

  1999年5月。ノストラダムスの予言によると、世界滅亡まで4週間(から最長で2ヵ月)。わずかなお金を財布に、本多巧は大阪へ向かった。
 お好み焼き屋で居合わせた二人組の悩みを解決した恩で、本多は仕事を紹介してもらうことになる。何ができるか、と問われ「探偵だ」と答えたことから家出した中学生二人を捜すハメに。連れられた先は、増改築を繰り返した原色のモール。お目付け役に白のワンピースがまぶしい美少女(でもオカマ)がついたことで、俄然やる気を出す本多だが、捜索中に奇妙な事件が二つも勃発!

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 本作は第15回鮎川哲也賞佳作を射止めた、日向旦(ひゅうが・あきら)氏のデビュー作となります。
 群を抜いた作品の水準、軽妙な語り口。非常に面白いこの作品、実は選考会上でかなりの物議を醸しました。『はたしてこの作品は「本格ミステリ」なのか』その原因はこの一点につきました。鮎川哲也賞といえば「本格ミステリの新人賞」というイメージがあるからです。
 そもそも「本格ミステリ」とは何なのか。選考委員の先生方の喧々諤々の議論の末、辿り着いた結論が「佳作として出版し、世に問うてはいかがか」というものでした。(この様子は山田正紀先生の解説に、詳しく描かれています)

 この作品の魅力は、ユーモラスなキャラクターたちや、軽ハードボイルドともいえるような軽妙な作風だけではありません。読み進めるにつれて浮き出てくる、腐敗しない権力、難民の共和国など、事件の動機をめぐる、ある種のユートピア論ともいうべき主題が大変興味深いのです。難しく聞こえるこれらのポイントも、個性溢れるキャラクターの言動として表れると、するすると読めてしまいます。
 エネルギッシュで躍動感いっぱいの装画はオオサワアキラ氏。世界をまたにかけたライブペイント、木村カエラのステージ書き割りなど、幅広く活躍されている氏のイラストが『世紀末大バザール』の世界を一層広げてくれます。
どうぞ、お楽しみください。

(2006年6月5日)
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